空き教室に二人分のシャーペンが擦れる音、それと先生が時々本のページをめくる音がする。
補習を受けることになったのはこの大澤くん?と私の二人だけだった。

先生は数枚のプリントを持ってきていて、それらにはぎっしりと問題が並んでいる。
『いつまでかかってもいいし、わからないところは相談しても教科書を見てもいいからとりあえず全部終わらせてみろ』が私たちに与えられたミッションだ。

(……まあ口を開けるような空気じゃありませんがね!?)

上から数問目でさっそくつまづいた私なのだけど、大澤くんはスラスラと解き進めていってる気がする。
教科書だっていらなそうだし、全然困ってなさそうだし。
もしかしてそんなに頭悪いってわけじゃないんじゃないの?風邪でテスト受けられなかったからとかそんな理由でここにいるんじゃないの?
そうだとしたら数学についていけてないのは現状学年で私だけということでは……??

沈黙をやぶるように鳴り出した校内アナウンスにふと顔を上げた。

『──竹田先生、竹田先生。お電話です。至急職員室までお戻りください』

本に目を落としていた竹田先生も顔を上げた。
視線が交わると立ち上がって、「そんなわけなので行ってきます」と静かに教室を出て行った。


「……ふは、なーんか息苦しかったね」

シャープペンを置いた大澤くんが長い手足をぐーっと伸ばした。

「あんなに静かじゃ相談なんてできないっつーの」
「でも大澤くんスムーズに解いてってるじゃん。私の教科書の出番ゼロじゃん」
「いやいやそんなことないって。合ってるか自信ないし」
「そういうこと言って……大澤くんて実際そんなに数学苦手じゃないんでしょ」
「あー、んー、はは?」

苦笑いの大澤くんは頬を掻くと、他に誰もいないのに少し体を寄せて小さく言った。

「実はさ。こないだのテストの解答欄、途中から一つずつズレてたんだよね」
「え……えええ。そんな……勿体無い」
「でしょ?みんなはすげー笑ってくれたんだけど親にこっ酷く叱られてマジどん底だったの。今回のテストめっちゃ平均高かったから余計に」

だから他に補習受ける人いると思ってなかったからスゲー嬉しかった。とあんまりニコニコされるもんだから、連られて「私もすごく嬉しかった!」と言えば、「それは全力で伝わった!」と今度は声を出して笑われた。

「名字さんは好きじゃなさそうだね数学」
「教科書見たところで意味わかんないからね!」
「ふははっ。まー俺もここにいるくらいだから得意ってわけじゃないんだけど……わかるところなら教えられるし、三日間一緒にがんばろっか」

…………大澤くん優しいなあ。
『悔やんだところで赤点は回避できないのである』とか正論ぶつけてくるどっかの運動部とは全然違うなあ。

お言葉に甘えてさっそく躓いたところを尋ねると、基礎基本問題なのにも関わらず嫌な顔一つせずに机を寄せてくれた。
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