最も悪い、と書いて 『サイアク』。

それは残念なことに今の私の感情にも、たった今告げられたテストの結果にも当てはまる言葉で。
赤字で大きく23点≠ニ書かれた紙切れを受け取って呆然としている私に、数学の先生は容赦なくトドメをさした。

「今回の赤点はお前だけだぞ名字。もう受験生なんだからしっかりしろ」

ウソだ。そんな、私だけなんて。

震える足でどうにか自分の席へ戻ると、となりの席の男子から『ドンマイ』と声をかけられた。
ドンマイって気にするなってことでしょ。無理じゃんそんなの不可能じゃん。
赤点の者は明日から三日間補習を受けるように〜と担任が言うと、何人かのクラスメイトがこちらを振り返って手を合わせたから、私はもう頭を抱えるしかなかった。


「まあ、ドンマイ」

授業が終わって各々が席を立ったりする中、黒尾がもう一度言う。

「ドンマイって何ですかー。こんなの気にしないやつは正真正銘救いようのない馬鹿じゃないですかー」
「そうじゃなくて、今さらテストの結果を悔やんだところで赤点回避できるわけじゃねえんだしって意味デース」
「そんなの言われなくたってわかってますーっ!……はあぁ」
「がんばれよ、五組代表」

意図せず五組の看板を背負って参加する羽目になってしまった補習。
そんな私を憐れに思ったらしい夜久が持っていたポッキーを1袋くれた。

「あんま落ち込むなって」
「夜久……いつもありが」
「今さら落ち込んだって頭は良くなんねーよ」
「もうやだバレー部ッッ!!」




そして迎えた翌日の放課後。時間が経つにつれてどんどんブルーになっていく私を見かねたのか、これから部活に向かおうとしていた夜久が顔を覗き込んできた。

「顔色悪すぎじゃない?大丈夫?」
「コイツずっとこんな調子なんだよ。たかだか補習だってのに……そろそろ時間だろ?」
「ああーっ行きたくない。どうかこれが夢であれ……」
「だがしかしこれが現実なのデス」

黒尾の言葉にぐうの音も出ない。
時刻は指定された時間の十分前だった。仕方なく立ち上がったところでバタバタと慌ただしい足音が近づいてきて、入口の当たりで止まった。

「ねえ!誰か数Vの教科書持ってる人いない!?」

教室に残っている人はもう何人もいなくて、その子たちが「持ってないよ」と答えると彼はがっくりと項垂れた。

「大澤?どうした?」
「夜久!これから補習があんだけど忘れちって!今日に限って誰も持ってなくてさー!」


…………補習?ウソ。私だけじゃなかった?
もしかして私だけって、このクラスでって意味だった?

「あーそれだったら」と黒尾がチラッとこっちを見るよりも早く反射的に腕を上げていた。


「はい!私!モッテル!ホシュウ!デル!」


キョトンと目を丸くしたその人は、しばらく間を置いたのちに盛大に噴き出した。

「ふはっ、へっ、何で片言?ウケる!」
「一人じゃない!ナカマ!ウレシイ!!」
「ちょ、ははは!何この子どうしよう!?」
「あー悪いんだケドそのまま連れてってくんね?だいじょーぶ普通のヤツだから」
「おっけーおっけー。よくわかんないけど一緒に行こっか?そんで教科書見せて?」

突然現れたその人はまさに週末の地獄を共有してくれる救世主。優しく微笑むこの世の神。

「あの!私すごく数学苦手で!三日間教えて貰ってもいいですか!?」
「いや大澤もこれから補習よ?」
「ふははっ、この子やっばいなー!」

荷物をまとめていると夜久が私の名前を呼んだ。
何?と聞き返すと、ほんの数秒の後に困ったように「がんばれな」と笑ってくれた。

「ありがとう。夜久もがんばってね部活!」

えー俺にも言ってよーとかなんとか言ってるおっきい奴は置いといて。
夜久のガッツポーズに見送られながら私は教室を飛び出した。
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