決して一方通行では

「さて、イメチェン作戦は残念ながら失敗に終わりましたが大きな収穫もありました」
「ジャージか。それほど大きくもないけどな」

一限目も終わり、次の授業までの十分程度の間に私たちは二回目の会議を開いていた。
化粧は最低限薄くした。もしやポニーテールが好きじゃないのかもとシュシュを外し、私にはゆる巻きだけが残っている。
他のクラスメイトには「今日髪可愛いね〜」と言ってもらえたし究極に似合ってないわけではないらしい。

「そもそも言わせてもらうとさ。その気に〜∴ネ前の話なんだけど、名前と孤爪に恋人らしい空気が流れないことの方が問題」
「あ、わかる」
「ナニソレわかんない」
「付き合ってる彼氏とあんまり手も繋いだことないって何なの。奥手とかそういう問題じゃなくない?」

心なしか二人の言葉に多少のトゲを感じるのは、孤爪くんの微妙#ュ言のせいだ。
でも言っていることに間違いはなくて私は渋々頷くしかなかった。

何度も、それはもう本当に幾度となくこっそり手を繋ごうと試みたものの、その手に常時携帯されているゲーム機やスマホには手も足も出ずその度に断念してきた。
確かに私ばっかり好きなような気はしてるけどそもそも付き合ってるわけだし。付き合ってるってことは孤爪くんだって私のこと好きってことでしょ?

(……あ。でも、)

そういえば、孤爪くんに好きって言われたこと……あったっけ?


「……いけないっ。スイッチ入った!ネガティブスイッチ!助けて!消して!オフにして!」
「はいコレ。さっきコンビニで見つけた。期間限定だって。」
「あっちゃん神……ありがたき幸せ……!」
「簡単か!」


……三組の授業は何だろう?
孤爪くんは何してるんだろう。やっぱりゲームしてるのかな。

あっちゃんがくれたお菓子を加えながらスマホを取り出してlimeを開き、一番上にある彼の名前をタップする。
私からの「おやすみ!」で終わった昨夜の会話の下に少しドキドキしながら文字を打った。


わたしのこと、すき?

(……重っ!ダメダメ、ドン引きされる!)

慌てて一つずつ文字を消して、勢い余った私の指はあろうことか送信ボタンを押していて。

「ああっ!?」
「!?」

『わたしのこ』

「唐突のマイベビー宣言……ッ!」
「あ、またスイッチ入ったよこれ!あっちゃん餌付けして!」
「やだよもうないよ。このままでいいよもう」
「辛辣……!!」

手の中のスマホがブブッと振動して目をやると孤爪くんからで。
こういう時に限って返信早いんだから……!と思う間もなく飛び込んできた言葉に一瞬戸惑った。

(……『うん』?)

何が?何で?

……って、あれ?えっと、ん?

これ、これって。

もしかして、もしかする……??


「孤爪ぐううんんん!」
「ちょっともうそろ鐘鳴るよ!?」
「あー、なんか変なスイッチ入ってるわ。諦めよ」

教室を飛び出して三組に駆け込むと、ガヤガヤしているその部屋の窓際で猫背でスマホに目を落としている孤爪くんがいた。
すぐに私に気がつくとすごく変な顔をした。まわりの人も真っ直ぐに彼の席へ向かう他のクラスの私≠ノ少なからず驚いているみたいだった。けど、構うもんか。


「だいすきっ!!!」


私の声は部屋中に響いて、誰しもが会話をやめた。

孤爪くんはというと地獄に落とされたように、この世の終わりを見たように呆然としていたかと思えば、俯いたまま勢いよく立ち上がった。

「…………信じらんない」
「え?ならもう一回……って、孤爪くん!?」

手の甲を口元に押し当てぴしゃりと言い放った孤爪くんは、風のように教室を飛び出て行った。
金と黒の混じった髪が靡いて、隙間から見えた耳は今までに見たことないくらい赤くて。

グツグツッとこみ上げてくるこの熱い気持ちを抑えきれなくて。

「待って、見せてお願い!その顔見せて!孤爪くーん!」
「孤爪!名字!授業始まるぞ!てか廊下走ってんじゃない!!」

「あの二人めっちゃ怒られてるんですけど」
「……え、なんか公開告白したらしいよ。三組の子からlimeきた」
「やべーな」

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