作戦決行!

いつも何の洒落っ気もなくただ垂らしただけ髪の毛を、ゆりぽんが緩く巻いてくれた上に一つに結ってくれた。
いつもは洗顔のあととりあえずお母さんの化粧水をバシャバシャつけて登校してくるだけの私に、あっちゃんがファンデを塗ってくれて、頬にはほんのりとチークを乗せてくれた。
それならば、とスカートも短くしてみると二人は親指を立てた。

準備は整った。


(いざ……ッ!!)

ドキドキしながら覗いた三組の中に孤爪くんの姿はない。
まだ朝練中かな。それなら体育館?
待ってようかとも思ったけど、どうしてもソワソワしちゃって居ても立ってもいられない。
階段へと小走りで向かい、タンタンタンッと軽やかに駆け下りる。
下の方から賑やかな声がして手すりに手をついて覗いてみれば、数人の集団の中にプリン頭を見つけた。

「孤爪くーん!おはよう!」

集団がみんなこちらを向いた。名前を呼ばれた孤爪くんは目を丸くしていた。

「名字さん」
「お、研磨のともだち?」
「あーやっくん会うの初めて?名字チャンだよ。研磨の彼女。研磨にベタ惚れ」

黒尾先輩がニタニタと笑いながら孤爪くんの背中を叩いた。ちょっと痛かったのか顔をしかめた孤爪くんが小さく「おはよう」と言ってくれた。

「か、かの!?研磨!俺はきっ、聞いてないぞ……お、お付き合いなんて!」
「言ってないし……」

部員はともかく、同い年の山本くんですら私たちの関係を全然知らないらしい。踊り場まで下りると、一つ下の踊り場にいる彼らからは微かに制汗剤の香りがした。練習終わりで汗が完全に引いていないのか、孤爪くんの髪が少しだけしっとりしている気がする。好き。かっこいい。

「その髪型、珍しーんじゃない?」

そう言ったのは黒尾先輩だ。

「そうなんです!わかりますか?」
「そりゃわかるって。可愛いし似合ってる」
「わーい!ありがとうございます!」
「なあ、研磨?」

さあ、孤爪くんはどうですか!?と期待を込めて目を向けると、その猫目が珍しくジッとこっちを見つめてきたかと思えばふいっとそらされた。

「……ちょっと、微妙」

「え、えええっ」
「うおおいッ!?」

さすがに予想もしていなかった。
可愛いよ(照れ顔)一択だと思っていた私の脳内孤爪くんがガラガラと崩れ落ちていくのを感じた。

どうして?あざとかった?
……もしや化粧もポニテも純粋に似合わない?

「で、出直してきます……」
「っあ、ちょい!名字チャン!」

思わぬ大ダメージにフラフラしながらも今下りてきたばかりの道を戻ろうとしたとき。
どこか慌てたような足音が聞こえ、振り向くと孤爪くんがすぐ後ろまで来ていた。

「うわっ、どうし……」

私の言葉も待たずに腰の方に孤爪くんの腕が伸びてきた。
びっくりして思わず身体を強ばらせたけど、そんなこと気にもとめず、持っていた赤いジャージの袖をぎゅっとそこに巻き付けられた。

「とっちゃダメだから。絶対」

背中の部分にアルファベットでNEKOMAとプリントされたそれは、彼がいつも着ているバレー部のジャージで。
わけがわからなかったけど、いつもより近く感じる孤爪くんの香りと上目遣いに胸がきゅーっとして思考回路があっさりと降参してしまった。

「ありがとう……大切にする……」
「えっ……いや、部活の時には返してほしいんだけど」

当初の目的なんてもうどっかに飛んでいってしまったけどそんなのどうだっていい。

だって私はッ!!
孤爪くんのジャージ(期間限定)を手に入れたッッ!!


「放課後まで丁重に扱わせていただきます!失礼シャスッ!!」

あの子ホントに帰宅部かよ!なんて誰かが笑う声を背中に浴びながら教室へと駆け出した。
走らないで、と孤爪くんの声が聞こえた気がしたけどもうそれどころじゃなかった。

すごく胸がドキドキしている。孤爪くんに抱きつかれてるみたいだな、と思うと余計に恥ずかしくて口元がニヤけるのを抑えられない。

「ゆりぽーん!あっちゃーん!」
「おかえり!どうだった?」
「微妙だそうですが!貴重な部ジャーを手に入れることができ、満足です!」

「……は?」

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