「…………嘘でしょ」
音駒高校二年一組。
放課後の静まり返った教室でゆりぽんが信じられないと頭を抱えている。
深く頷く私の背にどこか憐れむようなあっちゃんの手が添えられた。この案件は深刻だった。
「こんな事って……高校生男児が、彼女を押し倒す以前にキスの一つもしてこないなんて!!」
「いくら孤爪だからってそれはないとか言ってた数分前の自分を呪いたい気分」
「やっぱりおかしいよね!?付き合って半年、ろくにイチャイチャしたことないなんて私に魅力というものが備わってないってことだよね!?」
認めたくはないけど薄々そんな気がしていた。
小柄なゆりぽんと違って胸はないし、モデル体型なあっちゃんみたいに引き締まってないし陰であのエロ眼鏡がたまらねえ!なんて噂されたこともない。
(たまに自分の視力の良さが憎い)
「部活とか練習試合やら毎日何かしらあるみたいで、デートなるものもゼロ。たまに一緒に下校するも握られたゲーム機のせいで手は握れず。……でもさそのゲームちょっと面白そうで始めてみたんだけどこれがまた楽しくてさ。この間二人で狩りに行ったりして」
「ひと狩りすな!何でちょっと嬉しそうなの!」
「ゆりこ落ち着きな。名前、多分あんたたちこのままじゃずっとそのまんまだよ」
ぴしゃりと言われてしまえばそれまでだ。
反論する言葉も出てこなくて押し黙るだけの私にあっちゃんが静かに続けた。
「孤爪と少しでも進展したいんなら、名前が行動に移さなきゃね」
孤爪くんと、手を繋ぎたい。
あまり言われたことのない好き≠ェ欲しい。
あの腕に優しく包まれてみたい。
あの瞳に見つめられたい。
もっともっと、触れてみたい──。
「ゆりぽん。あっちゃん」
どうしよう、なんて言ってる暇なんてない。
「私、孤爪くんをその気にさせてやる」
私の固い決心に二人は力強い瞳で深く頷いたのだった。
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