アフタートーリー

「……あ」

それはつい最近まで何度も望んでいた偶然だった。
ガコンと出てきたヨーグルトを取り出しストローを差し込み口に含む、その瞬間の影山くんと目が合った。

「……ウス」
「コンニチハ」

片言になっちゃってる私に影山くんははてなマークを浮かべている。

「あ、こないだは国語のノートあざした」
「い、いえ。あの時は、えーと……ごめんなさい」
「何で?具合悪かったんだからしょうがねえよ」

久しぶりに顔を合わせた影山くんは相変わらず、やっぱりなんにも気づいていないみたいで少しおかしくなった。
ぶっきらぼうで、鈍くて……優しい人。
彼のことはよく知らないけど、これだけは自信を持って言えるなぁと小さく笑った。

「調子、もう良さそうだな」
「あれからしばらく経ったしね。もう大丈夫です。そういえばテストはどうだったの?」
「……漢字は満点だった」
「漢字、は?」
「…………」
「…………」

こんな顔もするんだ。
「せっかく貸してくれたのにすんません」と申し訳なさそうに頭を下げられて恐縮した。アレは月島くんの咄嗟の機転でノートを貸すことになっただけだし。
そもそもああなるとわかっていたらもっとわかりやすくまとめておいたのに。かえって申し訳ないくらいだ。

赤点があったら合宿に行けなくて、頑張ったけど結局ダメで、でも救世主が迎えに来てくれてどうにか東京に行けた、と嬉しそうに話す影山くんは本当に楽しそうでやっぱりバレーが好きなんだな、と思った。
彼の中でバレーに勝るものなんてもしかしたら今後も現れないのかもしれない。


「ちょっと。邪魔なんだけど」

後ろ、いや寧ろ上から不機嫌そうな声が降ってきて振り返ると月島くんがやっぱり不機嫌そうにこちらを見下ろしている。

「自販機の前で長話とか迷惑なんですけど。場所考えてやってくれない?」

小銭を入れてピッとボタンを押し落ちてきたのはミルクティー。
それを取り出して私に差し出すと彼が言った。

「君はミルクティー買うのにどれだけ時間かかってるのさ。昼休みいっぱいかけるつもりなの?……行くよ、名前」
「……っ、う、うん」
「そういうわけだからさ、王様。あんまり僕のにちょっかいかけないでくれる?」

そういうわけだから、の意味がちょっとよくわかってなさそうな影山くん。
彼は文字通り割って入ってきた月島くんに、少なからず“そういうの”を察したらしく怪訝そうに眉をひそめた。

「……お前らってそうなのか?だとしたら名字さんさすがに趣味悪すぎんだろ。月島だぞ」


聞き慣れたそのワードに思わずプッと吹き出した。


「……悪趣味同士、かえってちょうどいいのかもね?」

状況を理解できずに影山くんは首を傾げている。
月島くんは悪戯に口の端を上げて何時ぞやのようにそっと指を絡ませて私の手を引いた。
←prev
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -