よりによって、でアイツ(月島side)

担任の先生に用事があるから先帰っていいよ!
部室でのミーティングの後そう言った山口からは、本当は待っててほしいっていうのが見え隠れしていた。面倒だと思ったけど特に用事もないことだし教室で待ってると告げた。

誰もいないだろうと勝手に思っていたけど、そこには先客、というよりも残っている人がいて、机の上を散らかしながら突っ伏し静かな寝息を立てていた。
大した話したこともないその女子が一人何をしていたかなんて知ったこっちゃない。しかしながら僕の席は彼女の斜め前だ。足を運ぶのは仕方なかった。


(……手紙?)

便箋が見えた。今どき拝啓とか書くんだ、と少しおかしくなったのも束の間、一番上に書かれていた宛名と思われるその名前は自分がよく知っている人物のもので。

「げっ」

良く知りもしない彼女の印象は一瞬にして最悪になる。
趣味が悪すぎる。どうかしてる。

よりによってあの、コート場の王様を好きだなんて相当な変わり者か、アイツをよく知らないで見た目だけで黄色い声を上げるミーハーかどちらかに決まってる。(決して王様の外見がどうとか、そういう話をしてるんじゃない)


「ん……」

「!」

彼女が小さく身をよじった途端、自分がとんでもなく悪いことをしているかのような感覚に囚われた。
別に、こんなところでこんなのを書いてしかもそのまま寝るこの子が悪いんだし。……僕は悪くないし。

薄く唇を開けてうっすら微笑んだような気の抜けた寝顔に目を向ける。なんというか、その無防備な小さな子どもみたいな姿に何故だかため息が出た。
夢でも見ているのかむにゃむにゃと小さく何かを言っている。

ゆっくりと、惚けたような顔で。



「すき……かげや、まく」



衝撃。

それもものすごいやつ。


「……っ、は」

何だこれ。胸に何か詰まったみたいに熱くなる、この感じ。
その言葉は高校に入学してから何度も聞かされてきて、その度に煩わしいと思っていたはずなのに。

自分に向けられたわけでもない一言を、僕は。


彼女の下敷きになってる、中でも唯一長く書かれているであろう便箋を抜き出す。
うんざりするくらい女子感の溢れる丸い字で書かれたその二文字に、馬鹿みたいに釘付けになっている自分に心底うんざりした。
まさか、あんな程度で。あんな一言で、こんなのって、アリなのか。

さらり、と柔らかそうな横髪が名字さんの頬をすべった。
それはもう無意識に、反射的に手を伸ばして指先で髪を直してやる。思っていた通りの柔らかい黒髪に何故だか胸が高鳴った。……どうかしている。

「……んん」

くぐもった声と眉間に寄るシワ。
ぼんやりと瞼が上がって小さな欠伸を一つ。そして。

彼女の後ろで、動けない僕。


体を起こし、きっと彼女の中では書きかけなりに自信作だったであろう手紙がないことに気づいたようだ。

さて、どうする?僕。

彼女が振り向く五秒前。
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