勇気とほんのわずかな期待を
『話したいことがあります。明日の放課後、体育館裏で待ってます。ずっと、待ってます。
一年四組 名字名前』
昨日の放課後この手紙を影山くんの下駄箱に忍ばせてから、妙に落ち着かなくてムズムズが治まらない。
お弁当を広げたまま手をつけようとしない私をかずちんがおかしいと思わないワケがなくて、何度も保健室に行こうかと心配された。
……かずちん、私、今日告白するよ。
かずちんは絶対応援してくれるってわかってるけど、私はまだこの恋心を打ち明けていない。
何でかって言われたら自分でもよくわからない。でももしかしたら前に月島くんに言われた「趣味悪いんじゃない」が案外堪えているのかもしれないと思った。
絶対悪くないって自信持って言える、けど、そんなに私影山くんのことを知っていたっけ……?
「サンドイッチでも買ってこようか?それくらいなら食べられるんじゃない?」
「いいよいいよ、大丈夫。ごめんね」
食欲はないけどあんまりかずちんに心配をかけてしまうのは申し訳ない。
お母さんが毎日必ず入れる甘い玉子焼きを口に含もうとしたとき、「失礼します」と低い声が聞こえた。
この声は、どうしよう、こっちに来る人は、絶対。
「名字さん」
影山くんが私の机のところまでやってきて、キリッとした表情でこちらを見下ろしている。
放課後って書かなかったっけ?……書かなかったっけ!?と混乱している私と、ポカンとしてるかずちんをよそに影山くんがそのまま続けた。
「下駄箱の手紙、放課後って書いてあったけど放課後は部活行きてえし、話あんなら今のうちに聞いとこうと思って。何の用スか?」
バットで頭を殴られるってこんな感じなのかと思った。
近くでお弁当を食べていたクラスの子が「えー、うそ?」「ホントに?」なんてヒソヒソ言ってるのが聞こえる。
みんなの視線と、かずちんの視線。
変わらずに私を見下ろす、影山くんの目。
「王様、悪いんだけど」
涙を浮かべる私の腕を誰かが掴んだ。
「彼女今調子が良くないみたいだからとりあえず戻ってくれない?それとあの手紙は、君が苦手な国語のノートを貸そうかって、ただそれだけのことみたいだから。それは部活のときに僕が持ってくよ」
何を言ってるのかよくわからないくらいツラツラと言葉を続けた月島くんは、そのまま私の腕を引いて教室を後にした。
足の長さが違うせいか、彼の早歩きは必然的に私にとっての小走りになってしまっている。
背中が大きい。細身だなと思ってた腕は私のよりもずっと太くて、背の高い月島くんのうなじだけがぼんやりと見える。
ぽろぽろと涙をこぼす私に気づいた人たちが、何事だと振り返るけど、月島くんはそんなのお構い無しに歩き続けた。
「だから言ったでしょ、趣味悪いって」
腕を掴んでる手は大きくて、ただ優しかった。