い!

月島くんのことは実際のところよく知らないけど、他の男子とは違ってクールで知的。
そんな程度の認識だったのが、入学してから一ヵ月ほど経った頃だったろうか、彼の印象をガラッと変える出来事に遭遇した。

『悪いけど迷惑だから。大して知りもしない人と付き合うとか無理。めんどくさい』

雷が私に直撃したのかと思った。
バリバリ!とかドカーン!とか体が震えるくらいの衝撃を受けて頭が真っ白になった。
相手の子が泣きながら走っていくのを見た途端、思い出したように仕事を始めた脳がフツフツと沸騰していくのがわかった。

そんな言い方ってない。気持ちに応えられないにしろもう少し相手のことを考えた受け答えってものがあるだろうに。
聞くところによれば彼は、全ての告白をそんな言葉で断っているみたいだった。
私には関係ないことだけど、彼が呼び出される度にあぁまた相手の子が傷つくのかと思うと腹の底からムカついた。

人の気持ちを何だと思っているんだろう。
好き、を踏み躙るなんて人として最低だ。


「大っ嫌いだ、あんな奴」
「えっ」

「え?」

ピッ、ガコン。

前にもこんなことがあった、と思ったら影山くんが私を見ていた。
彼の右手はぐんぐん牛乳とヨーグルトのボタンに触れていて、牛乳の方のが赤く光っている。確かこの間もこんな感じだった。過ちに気がついた影山くんがやっちまったと額を押さえている。

「ご、ごめんね。影山くん」
「別にアンタが謝ることじゃねえよ。……今日はこっちでいいか」
「あ、ちょ、ちょっと待って!」

帰ってしまいそうな彼を呼び止めて慌てて小銭を取り出す。
彼の本当の目的であるヨーグルトのボタンを押してそれを取り出すと影山くんはキョトンと目を丸くした。

「この間のお礼!牛乳くれてありがとう」
「ん?……ああアンタあん時の人か。アレも間違えて買っただけだし別にいい」
「私がよくないよ。今回のは私が悪いし受け取って?」

まだ少し不服そうな影山くんは、それならコレやると牛乳をくれようとしたけどそれじゃあお礼の意味がない。
そう言うと渋々納得してくれたようでペコリと頭を下げられた。

「……あざッス」
「こ、こちらこそ!」

影山くんがどんどん遠くなっていく。せめて見えなくなってからにしようと思ってたのに私の顔はもうすでにだらしなく赤らんでいた。
緊張した。ものすごく、緊張した……!

少しだけ会えたらいいなーとか期待して無いこともなかったけど、まさか本当に会えるなんて思ってもみなかったし。
独り言、しかも悪口言ってる最中に会っちゃうなんてタイミングどうなのとか思うけど、会話ができた。
話せたんだ私。影山くんと……!

「〜〜〜〜〜っ!!」

声にならない喜びを押さえながらもう一度自販機に小銭を入れる。
お気に入りの紅茶のボタンを押したところで後ろ、というか上の方から声がかけられた。
……大嫌いな人の声だ。間違うはずがない。

「良かったねぇ。また少しお近づきになれて」
「……サイッアク」
「何なのその顔。アイツの前とずいぶんキャラ違うんですけど。さっきまであんな浮かれた顔しちゃってたのにさ」
「放っておいてって何度言ったら伝わるの?私の言ってる意味ワカリマスカー?」

わざと嫌味っぽく言ってやれば月島くんの眉がピクリと動いた。
フンッ、ばーか。大嫌いッ。
ずんずんと足を踏み鳴らして教室へと向かう。そんな私の後ろで月島くんがやっぱり笑ってるのなんて気づきもしなかったし、気づきたくもなかった。
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