よりによって、

一目惚れって多分、ああいうのを言うんだ。

ぶわっと風が吹いたみたいに息が詰まって、胸のところが切なくきゅうっとするの。

私、私ね。あなたの事が、


「……んん」

優しい風に髪をすかれたような気がして目を開けた。
突っ伏していた机の上は書き損じたり「拝啓」とか書いちゃったりした便箋で溢れている。

誰もいない教室で溢れんばかりの思いを綴りながらどうやら一眠りしてしまったらしい。
くあ、と欠伸をして伸びをしたときにふと異変に気がついた。
途中までだけど唯一上手く書けていた便箋がどこにも……。

「ふうん」
「!?」

あまりにもびっくりして、弾んだ体がガタガタッと机を揺らす。
声は後ろから聞こえてきて、色素の薄い髪と黒い眼鏡、それと長身がトレードマークの月島くんが私の後ろの机に寄りかかっていた。全身が金縛りにあったみたいに動けなくなった。

「……名字さんって影山が好きなんだ。チョット趣味悪いんじゃない?」
「ちょっと!返してよ!」

慌てて奪い返そうとするも、この身長差じゃ適うはずもなかった。

私はこの人がもう、本当に、とてつもなく苦手だった。
周りの女の子たちは彼のことをそわそわした目で見るけど、そんなの所詮顔だけで、性格は言うならばクソだ。何度でも言うよこのクソ!

「『あの日、お財布を忘れた私に牛乳を譲ってくれて──』」
「ちょっとねえ何で読むかな!?返して!?」
「コレってどうせアレでしょ、アイツが押し間違えたやつを偶然居合わせた名字さんにあげたとかそんなんでしょ」
「もううるさいなあ!月島くんには関係ないでしょ!返してってば!馬鹿!」

ああもうやだ。本当に嫌い。
散らかってる便箋をかき集めてくしゃくしゃのまま全部鞄に押し込んだ。
馬鹿!が効いたのかは知らないけど、嫌味ったらしく私の目の高さに返されたソレを奪い取って乱暴にしまった。

「女子の鞄の中とは思いたくないね」
「放っておいてよ。早く部活行っちゃえば?」
「残念ながら今日は体育館の点検日なんで部活は休みでしたー」

じゃあ早く帰ってよ!と言いかけたところで、遠くから足音が近づいてくるのが聞こえて口をつぐむ。
「ツッキーお待たせ!」と飛び込んできたのは彼と仲の良い山口くんだった。

月島くんと違って人の良さそうな物腰の柔らかさが、どうしてこんな意地悪な人と一緒にいるんだろう?と余計に私を悩ませているなんて、当の本人は夢にも思っちゃいないんだろう。

「あれ、名字さんどうしたの?勉強?」
「ううん何でもないよ。私もう帰るね。帰り気をつけて!」
「ありがとう。名字さんもね!」

また明日!と山口くんが手を振る隣で月島くんがこっそりとニヤニヤしている。
もうホント嫌。サイアク。あんな人に弱みを握られてしまったのかと思うと明日もまたこの教室に来なくちゃいけないのがひどく憂鬱に感じた。
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