街灯の灯る薄暗い細道。
私の手元ではビニール袋がガサリと音を立てている。
少しでも気を紛らわせられるのなら、とすぐに承諾したおつかいだったけど、残念ながら私の頭の中から大好きな人がいなくなることはなかった。

こうやって一人で考え込んでいてもモヤモヤが募るばかりで、何かが解決するわけではないのに。
ただ、夜久の顔がこれっぽっちも消えてくれなくて息を吐いた。


忘れるには新しい恋だよ、と力説していたあの子はそうやって乗り越えたんだろうか。
好きだって気づいたときから今まで、振られたあの日からも四六時中夜久のことが離れないのに、私に新しい恋ができるんだろうか。

そもそもこんな私に、夜久以外の人を好きになれる日がくるんだろうか。


「……嫌だなぁ」

思わず口をついて出た感情が音となって耳に届くと、それは途端に現実味を帯びる。
夜久へのこの好き≠ェ私の中から消えるなんてそんなこと、ありえる、かな。

私の涙腺はすっかり制御不能で、気を緩めば崩壊してしまうほどには弱ってしまっている。
周りには人一人いないというのに人目が気になってしまい、涙を拭って歩く姿を誰にも見られないよう、俯きながらただぽたぽたとアスファルトを濡らした。

そうやって下を向いていたからだ。


おでこに衝撃を受けて体がよろけた。
すごく上の方から声がして反射的に顔を上げると、大きな男の人がこちらを見下ろしている。

薄暗くて良くは見えないけどその人がギョッと体を強ばらせたのはわかった。
咄嗟に顔を伏せたけどこれは間違いなく、見られてしまった。


「……す、みません、前、見てなくて」


本当はどうだっていい前髪を整える素振りをしながら頭を下げて、足早に逃げ出した。
恥ずかしい。一人で涙を垂れ流しながら歩いてる女にぶつかられて余計に驚いただろうな。

このまま家に着いてしまったら、お母さんに根掘り葉掘り聞かれてしまうかもしれない。
多分目も赤くなってると思うし、どこか一人になれるところで少し落ち着いてから帰ろう。そうだ、その方がいい。


「あ、あのっ」

後ろから声をかけられて心臓が飛び出るかと思った。
振り向いた先にはさっきの人がいて、ついてきたの!?と恐怖を感じたのと同時に彼が何かを差し出した。ガリガリくんだ。

「えっ」
「あげます」
「えっ!?」
「さっき当たりと引き換えてきたやつなんで大丈夫です!」
「!?い、いいです!こちらこそ大丈夫です!」

(全然大丈夫じゃない……!)

無理やり手渡されてしまったそれをどうにか返そうと試るも、その人が受け取ってくれることはなかった。


「でも、幸せってオスソワケするものですよね?」
「は、はぁ……え?」
「嫌なことあったときって、いつまでたっても嫌なことばっかり考えちゃうじゃないですか」

やっと、その人をしっかり見た気がする。


「だから、今日は最悪だったけど、最後はアイス儲けたしラッキー!ってことにしちゃえばいいんですよ」


言葉が出ない。
流暢な日本語を紡いだ唇が優しく弧を描いている。

ぺこりと頭を下げ、その人は来た道を戻って行ってしまった。
お礼すら言ってないことに気づいた時には、彼の姿はもう見えなくなっていて。
私の手に残された優しさを、そっと腫れぼったい目元にあてがえば、確かに冷たいはずなのにどうしてかじんわりとした温かさを感じた。

涙はもう見当たらない


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