鈍いところも愛しいけれど


「あ、澤村くん。おはよ。」



「よー、はよ。今日は早いな。」



「うん、昨日英語の課題出し忘れちゃったからさー。今出した帰り。」



「おー、お疲れ。」





ポン、と頭に手を置いてサラサラの髪の毛を撫でる。






「む、子供扱いしないでよー。」



「ははっ、別に子供扱いしてるわけじゃないんだけどな。」



「してるよ!そういう言い方がそんな感じするー!」





頬を膨らませて俺を見上げる彼女、苗字は俺が三年間想っている相手である。





「はいはい、ごめんごめん。」





三年もずっとこの距離を保っていたから告白をして気まずくなるくらいなら、と何もしないでただ友達として過ごしている日々。





「あ、ねぇ澤村くんって今週の土日どっちか暇?」



「あー、土曜日は部活休みだから暇だけど。どうした?」



「ちょ、ちょっと一緒にお出掛けしませんか……?」





頬をほんのりと赤く染めて真っ直ぐ俺の目を見て伝えてくる苗字。





「え、お出掛けって、、全然いいよ。喜んで。」





了承の意を伝えると分かりやすいくらい顔が綻んだ。
たまに見せるこの顔は、ほんと心臓に悪い。





「ありがとう!詳しいことはまた決めようね!」





そう言って上機嫌に席に着いた苗字。
俺も上がってしまう口角を掌で隠しながら自分の席に着いた。









□ ■ □









そして土曜日。
10時に駅前で待ち合わせなのに20分前に着いてしまった。
まあ遅れるよりはマシだろうと思い壁にもたれ掛かりスマホをいじる。





「さ、澤村くん……?」





小さいけど確かに聞こえた苗字の声。
スマホから顔を上げて周囲を見渡す。





「やっぱり澤村くんだ!」





今度ははっきりと声が聞こえた。
声のした方に顔を向けると、





「待たせたみたいで、ごめんね。」





いつもポニーテールにしている髪は緩く巻かれていてふわふわと揺れていた。
たったそれだけのことでも俺の心臓は甘く締め付けられる。





「別に俺も今来たところだから気にすんな。……時間より少し早いけど、行くか!」



「うん!今日はよろしくね!」



「おー。つってもなんかあるんだろ?」



「あ、バレてた?実は少し男の子の意見が聞きたくて。」



「……彼氏、か?」





冷静に聞き返したが、すごい心臓が痛い。
先刻と違って、ただただ痛い。





「そんな大層なものじゃないよ。私、お兄ちゃんがいるんだけど来週誕生日でね。でもどんなものがいいか分かんなかったから。澤村くんの意見を参考にしたくて。」





へらり、と笑った苗字に俺もそうだったのか、と相槌を打ちそっと息を吐き出した。





「よし!じゃあ行こう!」





嬉しそうに歩き出した彼女の隣を歩調を合わせて歩き出した。









□ ■ □









「あ、もうこんな時間だ。そろそろ帰りますか?」



「ああ、そうだな。……プレゼント、喜んでくれるといいな。」



「うん!すごい楽しみ!……今日はありがとう澤村くん。これ、よかったらもらって。」





はい、と渡された袋の中には





「ミサンガ……?」



「そう!なんかこれ澤村くんに似合いそうだなー、って思ってこっそり買っちゃった。」





ちなみに色違い!と言って自分の腕を掲げる苗字。
そこには確かに俺が持ってるミサンガとは色違いのものがつけられていた。





(ああ、もう)





顔が、熱い。





「ありがとな、ちゃんとつける。」



「うん!じゃあまた月曜日ね!」



「……っ苗字!」





俺が呼び止めると不思議そうな顔で振り向く苗字。





「俺!此れからは遠慮しないから!覚悟しとけよ!」









鈍いところも愛しいけれど





彼女はきょとん、と首を傾げたように見えたけど





「挑むところですよ、澤村くん!」




笑った。









お題提供先: 蝶の籠

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