さあ、初めましてを始めよう


「約束だ」の続き


5年後設定。










無事に大学を卒業し、父が経営している会社で働いている。



「ねえ、この資料会議室に並べておいて!」


「はい!分かりました!」



まだまだ駆け出しだし、大変だけれど、
ここで働くのは楽しい、と思える。



それに、何も考えなくていいから。









「お疲れ、もうあがっていいわよ。」


「あっ、もうそんな時間ですか…。」


「あなた、すごいわねー。とても飲み込みが早いから色々頼んじゃうわ。」



「あっ、はは…。」


さすがにその言葉には苦笑いだ。

私の表情に気づいたのか、彼女も少し苦笑い。


「それじゃあ、あがりますね。お疲れ様でした!」



「ええ、お疲れ様。また明日ね。」










□ ■ □




偶然だった。
ほんとうに、偶然だったんだ。






「…天火、くん……?」




血の気が引いた。

なんで、どうして、彼女がここに。






ああ、そうか。
ここは彼女の両親の、会社だった。



「………っ………。」



逃げる訳にもいかず気まずい思いを噛み砕き受付に行く。



「15:00に社長と約束があった、曇と言う者ですが。」



「………………」



「あ、あの。」



「………………」




「………苗字さん?」



「あっ、はい、すいません!はい、曇さんですね、」



明らかに動揺している彼女は、昔よりも
ずっと美人になっていて、





左手の薬指がまだ淋しい事に安堵した自分が嫌だった。








□ ■ □





仕事が終わってすぐに駆け出した。

今ならまだ間に合うはずだ。




この気持ちのために、行かないと。







「天火くん!!」




「っ!」



肩がびくりと震えて恐る恐る振り返った彼。



「苗字、さん。」



「……やめてよ、名字で呼ぶなんて。名前で、呼んで。」



「……名前。」




天火くんの声で自分の声を呼ばれるだけで
心臓が暴れだす。



まだ、こんなに






「好きです。」



「な、」



「天火くんがもう私の事を嫌いになっても
忘れちゃってくとしても、私は、ずっと、
天火くんの事を好きでいる。」




それなら、許されるでしょう。







「なんで、なんで、お前はそうなんだよ…」



小さな声が聞こえて天火くんの顔を見た。




泣きそうになっている、彼の顔を。











無意識だった。
だって、好きな人の泣き顔なんて見たくない。




「……っ!?お、おい…!離せっ…。」



思わず、彼を掻き抱いていた。


「おいっ…ほんと、やめ、」



「大丈夫。今なら泣いても誰も見てない。」


「は………?」



「だから、泣いてもいいんだよ。」









なにかあった事には、気づいていた。

両親が天火くんに何かを言ったんだろうって。


私が天火くんにずっと執着してるから。


落ち着いて考えたら分かる事だった。

私が、天火くんを苦しめてたんだよね。






「……………っ……。」



「……お、おい。なんでお前が泣くの。」



「だっ、だって。っく。ご、ごめんね。私、のせいで。ごめんね……っ。」



「はっ?え?お、おい。なんの事だよ?」



「だって、私の両親に何か言われたんでしょう。」



「!……知ってたのか?」



天火くんの驚いた顔を見てやっぱり、と思った。

その言葉にゆるゆると首を横に振り、


「なんとなく…だけど…。でも、やりそうだと思ったから。」



あの人達はそういう事を平気でやるから。





「そ、か。」



沈黙が痛い。
天火くんを好きなのに、苦しめていたなんて、滑稽だ。





「約束、」


「っ、」


今度は自分の肩が震えた。



「約束、していいか。」



「っえ?約、束?」



「俺、もう負けないからさ、どんなに遅くなっても」













俺の事、待っててほしい。












「……っ待ってて、いいの?」



「待っててほしいんだ。でも、お前が嫌なら待たな「待つ。」………おう。」






「あ、ありがとう…!絶対、おばあちゃんになっても待ってる…!」



「ははっ、大袈裟だな。そこまで待たせねえよ。」







そして滑らかな動作で左手の薬指をとり
小さなリップ音をたててキスを落とした。
















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どうしても悲恋を書けないので、続きものにしました…!

悲恋が好きな人は読まない方がいいのかな。



一応まだ続きます笑


多分、多分ですよ!

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