小説 | ナノ



私は今、人生最大のピンチを味わっています。
…ここは、どこなのでしょう。
待って、落ち着いて、自分。
冷静になって、いや、ムリだ。
おかしいじゃない。
だって昨日は学校が終わってから、パン屋のバイトに行って、それで帰ってきて疲れてたから寝て、それで、ここ?
なんで?どうして?
こんな、ジャングルのような場所に来た覚えはないのだけれど。
それに、私の家の近くにもこんなところはない。
こ、これは……
噂に聞く、トリップと、言うやつなのでしょうか…?
え、まじで?
ど、どうしよう。
トリップかどうかはともかく、知らない場所にいるって事がすごく心細い。
………でも、このジャングル、どこかで見た事がありそうなんだけどな。

「私の、気のせい、かな」

それもそうか。
初めて来た場所なのに見たことある場所なんてあるわけないよね。

ガサリ

「!!?」

え、今、音、聞こえた、よ、ね?

「嘘でしょ………!?」

逃げ、なきゃ。
本能的に、そう思った。

ガサリ

「…っ!!」

気のせいじゃない。
音はこちらに近づいてきている。
その証拠に少しずつ大きくなってくる足音。
どうしよう、どこに行けばいい?
見ず知らずの場所なのに逃げる場所なんて知りようもない。
それに早くここから動かないと、と思うのに
体は固まってしまい全然動けない。

「ふ、ぅ…」

ゆっくり深呼吸して立ち上がる。
それでも、逃げなきゃ。
とりあえず、人がいるところへ。
決意を胸に音に背を向けた時、
音と共に声が聞こえた。

「あ?女?」
「うぎゃぁぁぁあ!!」

や、やばいちょ、こ、腰抜けた!!

「…くっ、あははははは!うぎゃぁぁぁあ!!って!や、やばい!つぼった!」
「あ、あの…。そんなに笑わないでください…!」

恥ずかしいんですけど!
つか女っぽい叫び声じゃなかったよね?
どうしよう我ながらへこむ。

「っはー、笑った。ごめんごめん。つかわりぃ。俺にびっくりしたんだよな?」

ごめんな、と男の子が謝ってくれる。

「そんな!私も叫んでしまってごめんなさい」

ペコリと頭を下げる。

「ははっ。いいぜ別に。あ、俺の名前は曇空丸。空丸って呼んでくれ」

ん?曇?空丸?

「空丸くん!?」
「は…?俺、お前とどっかで会った事あるっけ…?」

不思議そうに首をかしげる空丸くんを見て全身に冷や汗をかいた。

「あ、え、曇家の事はここら辺では有名なんでしょ?だからね!」
「あー…、成る程な…」

それもそうか、と案外すぐに納得してくれた彼。
あっぶない…!
空丸くんは私の事なんて知らないよね。
一方的に私が知ってるだけなんだから。
それにしても、これではっきりした。
私が見たことがあると思っていたこの場所は、どうやら漫画の世界だったらしい。
極め付けは“曇 空丸”と名乗った彼。
ここはきっと、【曇天に笑う】の世界なのだろう。
私は、ここに、きたのだ。



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