小説 | ナノ



「おーい?聞いてるか?」
「!?う、わぁッ!!」

な、なに!
空丸くん顔が近い!

「どうしたんだよ?話しかけても全然聞いてねぇーし。具合でも悪いのか?」
「あ…ごめんなさい。少し、ボーッとしてしまって…体調が悪いわけではないよ」

年下の彼に心配されてしまうとは。
思わず苦笑が漏れる。
いけない。しっかりしないと。

「別にいいけど。つかお前、名前は?」
「あ…!私の名前は 苗字 名前です。さっきは本当に叫んでしまってごめんなさい」
「 苗字名前、ね。よろしくな!」

そう言って空丸くんはにかっ、と笑ってくれた。
その笑顔に安心したのか急に眠気が襲ってきた。

「あ、なんだ名前、眠いのか?」
「う、ううん。眠くないよ。大丈夫!」

目をごしごし擦る。
少し赤くなっちゃうかもしれないけど、今は寝てる暇なんてない。

「すげー眠そうだけどな?」

意地の悪そうな顔でこっちを見ながらニヤニヤしている空丸くん。

「それじゃあ1人で帰れるかも心配だな。
家まで俺が送っていく」

家まで、と言う言葉を聞いて体がビクリと震えたのが分かった。

「………?どうした?」

只ならぬ雰囲気に気づいたのだろう。
空丸くんが不思議そうに聞いてくる。

「あ、あのね私。家、に、帰れない、の。」

私はここにきてしまったけど、どうしたらいいの?
どうして此処に来てしまったんだろう。
なんのためにここにいるの?
どうして、という今更な疑問が頭を占めて、つい先刻まで感じていた眠気なんて吹き飛んでしまった。
じわりじわりと目頭が熱くなる。
帰れない、という事実が心を重たくしていくようで、思わず自身の手をギュッとキツく握り込んでいた。

「理由は分かんねえけど……。それなら、俺達の家に来いよ!」
「空丸くん達の、家…?」

いいのだろうか、彼の好意に、甘えてしまっても。

「おう!だから、んな顔すんなって!」

お前は笑顔の方が似合うぞ、なんて

「ッそれは、ちょっと照れるから、やめて。……でも、ありがとう」

瞬きをした瞬間に、一粒だけ涙がこぼれた。
空丸くんの優しさに触れて、多分ここに来て初めて緊張の糸が緩んだんだろう。

「んじゃあ、そうと決まればすぐ行くぞ!」
「あ、ちょっと待って…!」
「ん?まだなんかあんのか?」
「あの、出来れば、服がほしいなあ…なんて」

さすがにずっと制服でいるのはきつい。
それにこの服を着ていたら周りの人の目が怖い。
……差別や軽蔑、好奇心の目は苦手だ。

「それもそうだな…。じゃあ、名前ここで少し待ってれるか?」
「え?」
「俺、知り合いの人に着なくなったものあるか聞いてくるよ。……わりぃな、お金があったら服買えてやったんだけど……。」

申し訳なさそうに言う空丸くん。
それでもその空丸くんの言葉は、私の心を軽くしてくれた。
天使のような子だなほんとに。

「…ありがとう。空丸くん。じゃあ、私はここで待ってるね!」

空丸くんの気持ちが嬉しくてここに来て、初めて心から笑えたような気がした。



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