Coccinelle | ナノ


▼ 貴方は私の胸を焦がす

今年の夏は蒸し暑く、鬱陶しい。汗をかいた分、家に帰るとシャワーを浴びて着替えをする。夕飯までは時間があるので、一寝入りしようとベッドにダイブした。

今日の試合は、相手チームの強力なスラッガーがいてひやひやしてしまった。でも、やられっぱなしじゃないのが青道だったし、最後は地力の差を見せつけることができたと思う。

「強かったな〜」

純くんはかっこよかった。もう、クラスメイトとして普通に接することが出来るようになってきたと思う。他人からみたらまた違うかもしれない。でも、自分だけでもそう思えるなら一歩前に進めたと思うんだ。

明日は終業式、受験生に夏休みはないのはわかってるけど、受験は早く終わりたい。私は皆よりも少し早く入試を受ける。
勉強は嫌いじゃなかった、ずっと。
難しかったことが出来ればこの上なく嬉しかったからだ。行きたい大学のオープンキャンパスに行った時に楽しそうに歩く大学生達がキラキラして見えた。私もあんな大学生活が送れたらなと羨望の眼差しで、あの時は見ていたと思う。でも、現実は甘くなくて勉強は好きでも得意じゃないから、先生には無理だろうって言われてる。友達にだってこの事はまともに話してない。両親は厳しくないしやれるだけやってみろって言ってくれてるし、お姉ちゃんはやらなくて後悔するなんてそれこそ馬鹿だと言っていた。だから、私は私の好きなようにやる。めげずに頑張りたい。あの、高みを目指して邁進する球児達のように頑張ってみたい。そんな存在があることを直接的でなくても教えてくれたのは他でもない純くんだ。

携帯を見てみると通知のランプが何回も点滅していた。もしかしてと思って確認すると、画面には伊佐敷純と書いてあった。前からそうだけど、変に純くんは律儀なところがある。たまにくる電話や直接のお礼は今となっては久々な気がした。

「純くん、どうしたの?」
〈あーわりぃ…今日は暑かったろ?大丈夫か?〉

純くんの声に自分の心臓の鼓動が聞こえてくる。取り繕いたくて少し間を置き、掠れた声が出た。

「うん、大丈夫。純くんは?」
〈俺は慣れてるから〉

純くんと話しているとりとめない話題は心地よい、この声をずっと聞いていたい。…側にいたい。

「…純くん。好き」
〈あ!?なんだよ急に!〉

大きな声に、自分の声が出ていたと気づく。全身の血が一気にめぐり汗が出る。
どうしよう、また会えなくなるかもしれないし、距離を置かれるかもしれない。今度こそ笑いかけてくれなくなったら…どうしよう。そんなの、嫌だ。
そもそも、純くんが律儀に電話してくるからいけないんじゃん。惚れた弱味につけこむようなことしてるのは純くんじゃん。
理不尽極まりない考えを頭に貼りつけて自分は悪くないと目をつぶる。あと、一年もない高校生活だ。もうどうにでもなれ。

「好きだよ!バカ!」
〈おま…〉

気持ちが溢れて止まらない。

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