Coccinelle | ナノ


▼ それはこっそりと小さく泣いている

浦井がまたグランドに顔を出すようになってから少したったある日、純が机に突っ伏して死んでいた。
本当にこんな奴のなにが好きなのか。最も、浦井の良さなんてもっとわからないけど。

様子のおかしい純の近くにいって腰掛け、図書室から借りてきた本を読んでいると、純は顔をあげてまた突っ伏した。

「亮介…アイツらやっぱり仲良いのかよ。」
「良いんじゃない?」

俺の言葉を聞いた途端、うなり声を出す純はかなり面倒だった。

「自分からフッたくせに未練がましいね。そんなに哲とのこと気になるなんて、好きだって認めてるようなもんじゃん。」
「…お前がいないと調子が狂うって言われたって。」
「哲に?浦井が?
ならなおのこと早くしなよ。自分の問題も解決できない男のことなんて、約束もしてないのに待ってくれる方がおかしいよ。」

好きなんでしょ?気になってるんでしょ?
自身の気持ちなんて分かりきってる筈なのに進まずに、二の足踏んで、挟まれる俺はいい迷惑だ。

とは言え、こいつらを放っておくのもばつが悪い。第三者がそんな気持ちになるのはおかしな話だけど、嫌いじゃないんだよね、二人のこと。

前から惹かれあってるくせになかなか進展しなかったことが可笑しかった。そんな二人を同じクラスでよく見てたし、うるさい二人が戻ってきた方が俺は嬉しいんだ。絶対に本音なんて言わないけど。

 ̄¨
二人の仲は進展するような気配はなく季節は進んでいった。
予選が始まると純は、完全に野球に集中していた。あの春の情けない姿を思うと別人で、三年として最後の夏に挑む男の顔になっていた。その姿をクラスの誰もが感じ取り皆で俺達を応援するような雰囲気になっていった。浦井は表面上明るさは変わらないがクラスでその切実な様を静かに見ていた。きっとそうでもしないと自分の抱えた気持ちが溢れて止まらなくなるのだろうと思った。

焦げるような真夏の太陽に汗が出る日が続いた。
勝ち越すことしか許されない夏のトーナメント、その日は哲の打ったホームランでコールド勝ちだった。勝因は打線が爆発したことが大きかった。見応えのある試合かと言われたら違うかもしれないけど、浦井ははしゃいでいて手を叩いて喜んでいた。この夏が長く続くことを心から祈っていると言う浦井は吹っ切れたようにも見えていた。
純の浦井を遠目で見つめている姿を見かけたときは、春前に戻ったみたいだった。直ぐ逸らすのは相変わらずだったけれど。

「あー、あいつらまた迷子になりやがって、帰ってきたらどつき回す!」
「…お仕置きだね。」
「沢村ー!!」

騒がしくも喧しい仲間の鞄を持ち合っていると、てんとう虫のストラップが光っていた。メッキがかなり剥げていて、古いものだと分かる。こんなの誰がつけるんだと眺めていた。男子高校生、ましてや汗臭い野球部には不釣り合い過ぎた。

そのてんとう虫のストラップに彫られているローマ字に気づき、俺は眉をひそめる。

「亮介、わりぃ!それ持つわ!」
「あ、これ純の?」
「そうだけど…?」

バスに乗り込み、身体を休めるなかで、窓の外では浦井が手を振っている。
てんとう虫のストラップにはみやびの文字と数字だった。ようやく戻ってきた明るく笑うあいつのことを思うと少し言うには気が引ける。

だって、お前の恋は想像以上に困難だ。

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