Coccinelle | ナノ


▼ 甘ったれた自分

 本当はこの日、浦井に俺の今の気持ちを伝えようと思っていた。
 浦井は本当に強いと思う。
友達と割り切ってくれた。いつまでも引きずり暗い俺も、俺であることを否定しないでいてくれた。俺がその優しさに甘えて、一生何も返さない可能性だってあったんだ。なのに…何度も何度も救いあげてくれた。
ありがとう。
大事にしたいよ、明るくて煩くて一途なお前のこと。

__...

まだ昼間は暑い日が続く。俺は、日陰に逃げながらも待ちあわせ場所に急いでいた。今日は浦井と映画を見る日だ。

「悪い!!待たせた!」

浦井は木陰で待っていた。俺を見るとすぐに笑顔になるんだ。いつも、いつも。

「ううん!そんなに待ってないよ!」
「嘘つくな。何時から待ってたんだ。待ちあわせ場所の写真を送ってきたの8時頃だったじゃねーか。」
「あれはネットでスクショしたからで…」
「この大量の写真を?」
「…まあ。」

変な間がある返事に軽く頭を小突く。
朝飯食べてから寮に戻ると携帯の点滅に気がついた。早めに戻っていた楠木や坂井が通知音がずっと鳴っていたと教えてくれたから慌てて画面を開く。その時間帯に待ちあわせ時間を間違えたのかと思った。

「そんなに早く来るなら、もっと待ちあわせ時間を早くしろよ。合わせるから。」
「…ありがと。でも、待ってる時間もデートの内でしょ。今日はデートじゃないけれど…」
「…楽しい時間は長いほうが良いってか?」
「はるかはね。」

お互いが知ってる漫画の話題につい笑ってしまう。大分前のものだから、普通、俺等世代は分からないだろう。野球漫画も読み漁ってたのかよコイツ。2年のはじめなんて何も知らなかったはずなのにいつの間にかに野球も勉強していた。まあ元々、漫画の話では気が合っていたから、もう知っていたのかもしれないし、実際のところは分からない。
浦井は俺の早すぎる到着が本当に嬉しいようで、カフェに行こうと俺を引っ張って歩き始める。珍しく、髪の毛はポニーテールで揺れる髪の毛をつい見てしまう。何度も振り返り笑顔を見せる姿につい笑みがこぼれていた。

「何食べよう…このパンケーキ美味しそうだけどこっちのケーキも…」
「俺、コーヒー。」
「…そんな大人な飲み物飲むの?」
「…じゃあ、紅茶。」
「え、何で変えるの!」

そう言って俺を見る浦井は笑っていて腹が立つ。飲み物が決まらないのは、こういう所に来ることに慣れてないせいだ。いちいち聞かなくてもいいだろうが。

「純くん、ルイボスティーにしなよ。結構、香りもいいし美味しいよ。私も同じにする。」

こんなことでと思われるかもしれないけど、そう言ってさっさと決めて店員を呼ぶ姿は、クラスで見る浦井より大人っぽく感じる。俺は学校でひたすら野球やっていたのに対し、こいつはバイトして友達と遊びに行って高校生らしい生活を送っていたんだから、社会経験は浦井の方があるに決まってるんだ。野球のない普通にどことなく憧れはある。普通に勉強してバイトして、遊んで、恋愛してみる生活は楽しいかもしれない。もし、俺が辞めると言ったらこいつは…

「許さないよ。」

「ん?」
「純くん、このまま遅れて最初から見れないなんてことあったら一生許さないからー!」

気づけばもう映画が始まる30分前、カフェでゆっくりし過ぎていた。浦井は俺が財布からお金を取り出す前に、モバイル決済をすましさっさとしろと地団駄踏んでいる。なんとか小銭で会計を済まし、店から出ると日差しの強さに目が眩む。それでもあいつは走り出した。その手は俺の手を掴み離さない。

きっと、見捨てないでくれるんだろう。俺がどんな道を選んでも。

「いやー早いな。携帯で会計が出来ると。」
「でしょ!?親からもお小遣いこれで貰ってるし、結構便利なんだよ!?あーもう喋らせないでー!疲れる!」
「運動不足だろ。」

優しさに甘え、弱い自分に蓋をした。

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