Coccinelle | ナノ


▼ お互いの背中を見ていた

夏以降、これからのことを考えて勉強を頑張ってはいたが、勉強は元々そんなに得意ではない。期末で赤点は取ったことなかったけれど、それなりに頑張っても上位に入ったことはなかった。自分の学力を考えれば哲と同じ六大学は厳しい。地方大学に行ったとしても、プロになるなんて稀だ。甲子園で活躍した選手が地方に行くことなんてまずないから、そういう意味では哲ほどの注目選手でもなく予選止まりだった俺みたいな奴を拾ってくれるとこもある。監督や部長は野球を続けるとしても、野球をするから大学に入るのではなく、あくまで大学は学ぶところ、学びたいものがあるのが一番だと教えてくれた。最初の進路面談で曖昧な答え方をした俺へのフォローもあったのかもしれない。
ここで野球を辞めたとして何が残るのかと考えることもある。それとは逆に、野球を続けたその先に何が待っているのかとも考える。こんなに頑張ったのにあの舞台に立てなかったんだ。

カレンダーを捲り今後のスケジュールを眺める。推薦に備えた面接練習や小論文課題、模試、受験対策諸々、大学見学等の日程を色々と書き込んでおいた。約束の日、見逃すなとかなり主張してくる位置に大きく女子らしい文字が書かれ、その横にはよく分からないシールが貼ってある。浦井が友達としてまた話すようになってから遅れた誕生日プレゼントを渡してきた。これからは使えそうだと思って、ありがたく使ってたのに気付いたらこれだ。マジで、何なんだ。
近づいてくる浦井との約束の日に、少しばかりの不安はありながらも久々の映画に楽しみな気持ちもできてきていた。話題作だし気になっていた漫画が原作の映画だ。ただ普通に作品を楽しめと言う浦井の言葉も手伝っている。

それでも、俺はやっぱり哲が気になった。結局、相談して迷っていた映画は行くことにはしたけれど、あいつは春頃に浦井を気にかけてたことも本当はずっと気になっていた。今も哲と浦井は相変わらず付かず離れずの関係でいる。告白から距離が離れたことで、ただ友達関係にしか見えなかった二人が違って見えてきた。ただの邪推だと言われればそれまでだが。これも全部亮介が余計なことを言うからだ。

疑問をぶつけるため、寮に来て体を動かしていた哲にジュースを奢るといって、人気のない自販機へ一緒に歩いた。校舎方向で帰るやつがほとんどだからかやけに静かな場所に機械音が響いた。

「哲、お前は本当にいいのか?」
「…」

俺を見る哲はきょとんとしていてわかっていない。

「俺があいつと映画行ってもいいのか?」
「お前が行きたければ行けばいい。」
「でも、お前はあいつのことを…」

自分の気持ですら言葉に出したことがない。だからか、自分以外の言葉でも口籠ってしまう。流れで聞かれたとしても俺はどうなのかとは口が裂けても言えない。

「たとえ俺があいつのことを好きだったとして、そんなあいつが好きなお前を俺がひどく憎んでいたとして、俺が本当は行くなと止めたかったとして、それがお前に関係あるか?」
「関係あるだろ!」

一瞬、何を言われたのか分からなかった。だけど、反射的に言葉が出た。
もし、自分の気持ちを蔑ろにしてまで俺を応援しようとしてるのなら見当違いだ。

「じゃあ、言い方を変える。純、俺に野球で勝てるか?」
「は?」
「四番バッターとして俺の代わりに打てるのか?」
「おい!いい加減にしろ!こんな…話ししたって無駄なんだよ!」

何が言いたい?
何度思い知らされたと思ってる。俺はお前には負けたくなくて…でも、どれだけ足掻いても、努力しても…挫折しかけたことだってあったんだ。

興奮した俺は冷静な哲を見て、高ぶる気持ちを抑えきれずに缶を地面に投げつけたくなる。そんな中、沈黙を破ったのは哲だった。

「じゃあ、分かってるだろう。俺はお前にはなれない。お前も俺にはなれないんだ。」

急激に登った血がゆっくりと下がっていく。
その言葉を聞いたとき、ようやく分かった。言葉足らずなこいつは、不器用すぎるこいつは…俺がお前を見るようにお前も俺を見ていたんだ。そうじゃなきゃ、こんな言葉は出ない。

「お前にしかできないことがあるんだ、純。信じろ、野球も自分自身のことも。」

哲は真っ直ぐ俺を見て言った。
本当に結城哲也には逆立ちしても敵わない。そういうお前だからこそ、託せると思ったのによ。このまま目を背けることは許してくれねぇんだな。

「行くよ。哲、お前が後悔してもしらねーからな!」
「何の話だ?」
「はあ?…好きなんじゃねえのかよ。」
「…。フッ、どうだろうな。」

この際だから白状しちまえと何度も言ったのに哲は例えばなんて嘘だと言って、本当の気持ちを明かさなかった。それが俺やあいつのためなのか誰に向けての優しさなのかは分からない。それでも、明日はできることならいい方向に転がると良い。
この見ぬふりをし続けた感情の置所を探してるんだ。

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