Coccinelle | ナノ


▼ 雨のように降り続き溢れ出る

純くんを好きになったきっかけはまだクラスメイトでもなかった一年生の時、雨の日だった。しとしとと降り続く雨に私は時間を気にして走っていた。廊下を走るなと言われたら困るから、先生の前ではおしとやかに笑って歩いてはいたけれど。その日は哲也に用事があって、置き傘を借りたいとクラスに寄ったんだ。野球部の哲也は昔から小さい体型だったのに何だか大きくなってきていて、私は彼の成長を中学のクラスの子に伝えていたりクラスは違っても交流があった。

「野球部の人いますかー?」
「なに?」
「結城哲也くんいる?傘かしてほしくてさ」
「結城ならさっき臨時の委員会いくって行っちまった…言付けあるなら俺が聞くか。」

そう言ってくれた親切な人が純くんだった。煩くなくて小さくてと言っても私と同じくらい。置き傘は高校だと名前だけ書いて置かなければ廃棄する決まりだと先生は言っていた。つまり、名前はみれば分かるだろう。

「あの、結城哲也くんに傘借りるって伝えといてもらっていい?」
「ああ。」

そのまま正面玄関に向かうと、置き傘が少ない。まさか…

「ないじゃん!」

今日はバイトで、家帰ってお風呂入ったりする時間なんてない。傘を出しては入れてを繰り返し、名前を確認するけど、哲也の傘はどこにもなかった。完全にあてがはずれた。

「あ…さっきの」

振り向くと、言付かってくれた男の子がいた。

「傘ないの…」
「…そんな悲壮な顔すんなよ。傘くらいで。」
「だって!バイト先で濡れた頭で接客するわけにはいかないし…店長優しいけどそれだけにもしこんな理由で休んだら迷惑かけちゃう。もうこうなったら最新のオシャレ、ウェットヘアと言い張るしか…」

その時、純くんは呆れた顔でため息ついて、傘を差し出してきた。伊佐敷純と書かれた黒い傘、もちろんこれは彼のものだ。

「貸す。馬鹿なこと言ってる暇あるならさっさと行け!」
「なんで…いいの!?」

良いと、言って純くんは雨のなかを走って行った。自分だって濡れるのになんでとか、今日はじめてあった人にこんなことしてくれるなんてとか色々思ったけど、私はその背中が見えなくなるまでずっと眺めていた。

純くん、私さ、不器用に傘を貸して自分が濡れてしまうことなんて構わずに、雨の中を走るあなたを忘れられなかったんだよ。

だから、2年のクラス替えであなたと同じクラスになったとき、もう目であなたを追いかけてた。

「また、不機嫌な顔して!」
「うっせ!テキトーなこと言ってんじゃねぇ!」
「哲也ばっかりチヤホヤしておかしいって言ってるけど、私もなっちも姐さんも同中だし、集まれば自然とそうなるんだよ。」
「そんなこと言ったって球技大会で、他のクラスを応援し始める馬鹿がどこにいるんだよ!」
「…スミマセン。」

球技大会は白熱して私はバトミントン、純くんは卓球で大きい声でチマチマ戦ってる姿が面白かった。同じ中学の子達もちらほらいたから集まって話していたら、伊佐敷君VS哲也になっていた。その過程は何回も説明してるのに分かってくれなくてやきもち焼いている姿にクラスのみんなで宥めていた。

「もうみんなお昼行っちゃうよ、一緒に行こうよ、伊佐敷君。」
「うるせぇ、勝手に行ってろ。」
「何食べたい?好きなものかってあげる。」
「…カツサンド。」

伏せながらも正直に言うその姿は可愛かった。

今度はしっかり応援すると、クラスの皆で伊佐敷君の野球の応援に行くと彼は紅白戦の真っ最中で、先輩のなかで物怖じすることなく向かっていく姿にもう目を離すことなんて出来なかった。

「美味しいとこ全部頂いてやらぁ!見てろ!特に、裏切り者三人衆!!!覚えてろよ!」
「うっさい!がんばれ!」
「負けんなー!」

「…」

もう皆の声が遠くに聞こえて、私の中は彼だけになってた。

純くん、負けないで、負けないで。
私は純くんを応援に行くことはやめなかった。貴方と貴方の愛する野球が大好きなのだ。

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