▼ 彼らの夏よ、もう一度。
あの夏、蒸せ返るような嫌な夜を、ずっと離れないで居てくれた結城君は、次の日の学校で私を見つめては考えてを繰り返し挙動不審だった。
クラスの皆はそんな様子をみて心配したり、笑ったりで、私もついそんな様子に皆につられて笑っていた。
『生きて欲しいよ』
そう言われたとき、もう少しだけ明日がどんなものになるのかと思った。震えるからだが、疲れた心がもしかしたら救われるなんて劇的なことはないかもしれない。
でも、明日絵の具を使ったらもしかしたら良い色かもしれない。明後日、見える景色はいつもより違うものかもしれない。
もしかしたら…と、ひき止めてくれた思い出させてくれたのはそんな小さなことだった。
ねえ、まだあと1日だけ生きてみるよ。
 ̄¨
脆くてまた一人で立ち止まりそうなときがまた来るかもしれない。分からない。まだ怖いくせに、結城君達が叶えたい夢を追う姿に、さらに背中を押された。
最後の最後で観に行った試合は、青道高校の敗戦で終わり涙を流さない結城君は立派で、他校は想いを繋いでいくのだと思った。私は何かできたわけじゃない。試合が終わって数日たっても、言葉をなかなかかけられなかった。心配で休みの日学校をうろうろしていたら見つけられた。結城くんは腫らした目で来てくれてありがとうと声をかけてくれた。そんな彼に、私は離れないように側にいるしか出来なかった。自分がしてくれて嬉しかったことを返す、小学生みたいな発想に彼はただ頷いて流れるものを隠すように何度も空を仰いでいた。
蝉の鳴き声が終わるように私たちの夏は終わり、季節はめぐる。
prev / next