恋の色 | ナノ


▼ 一人言

ずっと、好きだった。

彼女のことをずっと好きだった。
真っ直ぐでバカみたいに夢を語って、でも、時々顔を青くして授業をサボって絵を描いてるほっとけない女の子だ。

時々うざくて、適当にあしらったり、明け透けに言ってもついてくる。最初はもちろん遠慮もあったけど、お互いに気をつかはなくなるまではそう時間がかからなかった。

泣いているわけじゃないけど顔を伏せている時はいつもみたいに声がかけられなくて、事情を分かっているような紺野にごめんとよく謝られた。何か力になりたいと思ってはいたけれど、どこまで踏み込んでいいかもわからずにいた。

3年の夏、試合に本気で挑んで敗れた、あの夏に、まさか彼女が人生を諦めようとしていたなんて思わないだろ。

誰よりも力になりたいと願っていたはずなのになにも出来なかった。もし踏み込めていたら未来は変わったか。伊崎を幸せに出来ていたか。
分からない。


哲が伊崎を誘ったのは、伊崎が哲を意識したのは俺がきっかけだった。
なんとなく直向きさとか、目がよくにていたんだ。似ていることに気がついたときはなにも意識なんてしてなかったし、普通にそれぞれにそれぞれのことを話してた。今、少し後悔してる。でも、伊崎の笑顔や近況を聞くたびにそんな感情はなくなってしまうんだ。

二人は、俺と違う一年をあのクラスで送り、おそらく積み重ねてきたんだろう。本当に少しずつ、変わっていった。距離感も言葉も、何もかも。
この二人の恋が実ることがなかったのはお互いが夢しかみていなかったことと、不器用で鈍感だったからだ。
二人が結ばれなかったのが俺の唯一の救いだった。

でも、もう分かった。
年月が流れ、大人になった俺達はもうそれぞれの道を歩み始めている。

伊崎が海外に行くと連絡が来たのは、あの敗戦から5度目の夏を迎える前だった。
紺野や俺、皆で会おうと話をしてきた。

伊崎に会いたくないわけはなかった。

でも、もう自分の感情を優先するのはやめようと思った。

「幸せになれよ」

電話だけかけてその日はもう、携帯を見ることはなかった。

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