恋の色 | ナノ


▼ 迷いも悩みも力に変えて

辛かったんだ。
あの頃、俺は悩んでいてよく桜の木の下でグラウンドを離れた位置から眺めていた。放課後はほとんど練習だから、昼休みや朝の早い時間だったと思う。

主将として任命されてからただがむしゃらになれたら良かったんだが、どうにも俺はそこまでなれず、純や増子に助けられてばかりだった。話を聞くだけじゃなくて何か言えたら良いのだけれど、それが難しい。ワンテンポ遅れて返したり、的外れになってしまったり、口下手と実感してしまいますます落ち込んでしまっていた。

出来ることをやればいいと同輩からの言葉には救われる。だが、このままじゃマイナスでチームに迷惑がかかるのでは、とも思っていた。焦りはプレーにも影響が出てしまう。集中したい局面で影響が出るかもしれないと、正直怖かった。

事前に自販機で買ったお茶、小川の音に時間を忘れた。平気で30分はいられるが休み時間の終わりや朝練は直ぐにやって来てしまう。でもこれだけでも、十分だ。2,3日たったある日、女子が似たような時間に座っていることに気がついた。丁度見えない正反対の位置にいたため、視線を感じたときは驚いた。見たことあるような気がするが、分からなかった。
練習をしてミーティング、授業をしては練習に行きそんな日々を繰り返した。不安な気持ちは晴れることはなく、抱えたままそれは募り、膨らんでいった。そして、ある日改めて、監督に話に行った。

「自信がないです。主将としては力不足ではないかと、まとめあげることも簡単にはいきません。」
「部員の多いこのチームを器用にまとめろとは言わん…」

監督はの見据えたさきはグラウンド、その言葉は予想外だった。

「お前はプレーで全員を引っ張ればいい。プレーでな――…」

プレーで…その言葉の裏には期待がある。振ってきたバットの数、監督のノックや何度も局面を乗り越えてきた守備、積み重ねてきた精神力…認められたんだ。

「やっぱり落ち着くな、ここは。でも、最後だ。」

桜の木のもとに立ち、見据えたその先に白球が転がっている、遠くから皆の声が近づいて来る感じがする。
もう、迷いは消えていた。

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