恋の色 | ナノ


▼ まずは祭り、夏の始まり。

楽しみにしていた文化祭に我がクラスはお化け屋敷で来る人を恐怖のドン底に落としこんでいた。驚く姿に笑いが込み上げてくるところを我慢し次の人を驚かす。

「なんでなんでなんで!!」

紺ちゃんの声が聞こえる。クラスの友達と来たのかな。
私は彼女らを驚かすために思い切り水鉄砲を足元に向かって発射し、録音したBGMを流す。

「呪い殺す」

金切り声を出しながら逃げていく姿についに笑ってしまっていた。

今日で文化祭は二日目だけど、大盛況だ。私はクラスの準備に参加できなかった分、たくさんシフトを組んでもらっている。午後だけ美術展の方に顔出して、感想書いてもらえるように声かけしよう。

「伊崎、変わろうか?」
「いいよ、まだ大丈夫。ありがとね!野球部の子達と違って私は当日参加できる組だし、準備に参加できなくてごめんね。」
「結城君達、明日の午後少しだけ、顔だしてくれるって言ってたよ。」
「大会中なのに?悪いね。」

野球部は今、夏の大会に入り毎年文化祭の参加は難しい。でも、少しだけ参加できるなんて珍しい。
携帯のバイブ音が聞こえる。自分の鞄を漁ると、後輩からメッセージが来ていた。

「ロード、今日もめちゃくちゃ好評ですよ!額に収まるだけじゃない感じとか、それぞれの道へ行ったり、新しく道を切り開く描写も色んな道が面白いって。」

じわぁっと胸が熱くなるのを感じて、嬉しくて小躍りしてしまう。ああ、この日のために誰かの心を動かす一枚を作品を描くために、此処にいるし続けてきた。本当に嬉しい。
残りの文化祭も、全力で楽しめそう。暗闇の中、口角が上がったまま下がらなかった。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄¨
午後に入り、客入りも減ってきた。私は美術展に向かった。

「直先輩待ってましたよ!」
「早く見てください!」
「遅くなっちゃったね。」

渡された感想ノートをペラペラと捲っていく。後輩の子達の初めての作品、私達が今まで描いてきた絵、今回のロードがそれぞれが評価されていた。

「去年の桜の木が圧倒的に人気ありますよ。やっぱり賞貰った作品だけあって最強ですね。」
「さっき野球部の人が来て、大きな声の人も色々書いてってくれて…」

後輩の言葉通り、そこには数数のメッセージがあった。言葉をなぞっていくように指を滑らしていくと彼の字があった。入れ違いになっちゃったけど来てくれたんだ。律儀だな結城君は。

もう、片付けするのがもったいないじゃない。自分の三年間の幕を一足早く閉じるみたいで、青春がここで終わるみたいで、少し切なくなった。

「居た。」
「あ…小湊くん。なんで、もう帰ったんじゃ」
「伊崎の絵を見ときたくて、もう最後だし。哲達はもう帰った?」

頷くと同時に美術展と言う名の教室にずかずかと入ってくる。いつにも増して小湊くんの肌は焼けている気がした。

「この絵だよね。」

そう言って小湊くんが指すのは今年のロードじゃなくて、去年の桜の木の絵だった。ドクドクと心臓の音が聞こえる。嫌な気持ちも、嬉しかった気持ちも何もかも引っくるめたものを此処にとどめたんだ。

「うん。諦めないでよかったよ。」


もう、終わりにしなきゃいけない。名残惜しいと思う気持ちを他所に、時間は無情にも過ぎていく。夏風を取り込もうと窓を開け陽を入れた。風はノートのページをめくり、陽は作品達を照らしていく。

結城君の見慣れた字は何故か、今の私と同じ気持ち、諦めないでよかったと書かれていた。

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