恋の色 | ナノ


▼ 道

お誘いを受けたのは夏の大会前の話だった。結城君は毎日練習にクラス内では勉学に勤しんでいる。誰かの本気は自分も頑張れよと背中を押される気分になる。

私はあれから文化祭の準備に忙しくて、後輩の子と合作のロードという作品を仕上げていた。名前通り道なのだが、長々としたこの作品に終わりは見えてこない。非常にまずい。この調子だと、応援に行けるかもあやしい。逸る気持ちもあるが焦ってもどうにもならない。

「このみち〜は〜なんとかなんとか〜」

私が外れた音程で歌っていると、一年生の子達は伊崎先輩かわいいーと囃し立ててくる。気持ちを作ろうとこのメロディを口ずさんでいた。

「ご機嫌ですね、先輩。でも、私はそこはカントリーなロードのつもりで描いてました。」
「え、そっち?もうちょっと和の要素入れていこうよ。ここは日本よ?」

合作とはいえ付き合いの長い一個下の後輩とは合わないこともある。取り敢えず、端の方から仕上げていくので真ん中お願いします。と言うとさっさっと道具をもって行ってしまった。連日の19時台まで部活動がしんどくなってきたようにも見える。いつもなら明るく茶々をいれるような子なのに。

「終わりがみえなーい!」

後輩が遠くで叫んでいる。
たしかに道だし終わりは見えない。先へ進む度に道は枝分かれしていく。進路とか人生の岐路とか、通学路、高速道路みんなそうだ。あれ、本当に道に終わりがあって良いのかな?

「ねえ!閃いたよ!終わりなき道にしようよ。」
「…道なき道をいくって感じですか?」
「ちょっと違うけどそういうこと!」

二人の案を合わせて、平面じゃなく立体に壁面や部室以外の至るところに貼っていくことでその作品は完成させることにした。それから1週間ギリギリまで描いては貼り、描いては貼りを繰り返していった。後輩は完成したとき散々泣いて、なんだかこっちまで泣きそうで、文化祭までに間に合ってよかったとわしわしと後輩の頭を撫でまわした。

出来たことが嬉しくて後輩と打ち上げやる日程だけ決めて帰路につくことにした。そんな時に、明かりのついたグランドに野球部の声が練習の音がまだ聞こえてくることに気がついた。野球部ってこんな時間までやってるの?
この道だけ明るいから怖くないと思って今日は通るけど、青道って本当に強豪校なんだな。

自宅に戻ると、母に見つからないように玄関をそっと開ける。家の中は暗いけどたまにいるから怖い。お化けみたいだし、正直母は存在事態が怖い。

「絵の具つけた顔で何処に行くの?」

肝が冷えたとはまさにこの事だ。
母の声に振り向くと、真後ろに母はいた。つまり、同じ玄関から入ってきていたのだ。顔をぬぐいながら、適当に話してリビングに行く。

「部活も終わったら、あとは受験ね。貴女いつも報告してくれないけど、必要なものあったら言いなさい。塾の費用だって馬鹿にならないんだから。」

今日はいい母の日か。残り物を温め、ラップを剥がしながら母を一瞥した。微笑するその顔に虫酸が走る。去年、母がしたことを私は忘れない。

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