恋の色 | ナノ


▼ お誘い

小湊くんから貰ったチケットを握りしめて私は食堂へ向かった。お弁当とお味噌汁、おしんこをそれぞれお盆にのせて友達の紺野を探していると、日の辺りのいい窓際の席に手を振る彼女を見つけた。紺野の側には結城君がいたことに驚いた。

「結城君、相席いいかな?」
「邪魔だったか?」
「そんなことないよ。紺ちゃんの隣にいたから接点あったかなぁって、ちょっと思っただけ〜」

結城君は優しいしクラスでの接点はあるけれど学食で居合わせるのは初めてだった。恐らく、混んでいるせいだろう。紺野は私の顔を見ながらほくそ笑む。

「なに?結城君に焼きもち?相変わらず、直は可愛いな…あ!実は逆だったり」
「そんなわけないでしょ!」
「あ、小湊君じゃん、久しぶり。」

遅れてきた小湊くんは紺野に挨拶をすると結城君の向かい合わせに座る。この二人が揃うと体格の差が出る。彼らの共通点と言えば野球部だ。
紺野と小湊くん、私の三人は去年までは同じクラスだったが今年は見事にバラバラになった。そんな元クラスメイトが集まる中をいくら席から溢れたとはいえ結城君が居るなんて変な感じがした。

そんな私を他所に話は盛り上がっていく。春の関東大会には一年生が投げたとか、2年のキャッチャーが凄いだとか紺野は野球部のファンのようだ。紺野がこうなったのも私が小湊くんと話すようになってからだ。私はこのての話になると分からなくなるし、野球のルールについても曖昧だし、ついていくのも大変だ。
ふと。あまり言葉数が多くない結城君に気がついた。

「どうかした?」
「つまらないか?伊崎はいつも喋っているイメージがあったから珍しいなと」

私を気にかけてくれていたんだと慌てて、手を横に振る。

「そ、そんなことないよ!多少は分かるし…」

図星をつかれ言葉を濁す。
結城君は私の方を向き、向かい合わせになる。私の膝は結城君の脚に当たりそうな距離感だ。この距離感で見つめられるのは少し恥ずかしい。

「じゃあ、見に来て欲しい。」
「なんで?」

私より早く問いをかけたのは小湊くんだった。結城君は節くれだった指を顎にあて考えると、「すまない」と申し訳なさそうに謝った。

わからない。結城君がわからない。

伊崎も部活で忙しいからと小湊くんが助けてくれたからいいけれど本当に断ってよかったのだろうか。食事が終わりお弁当袋を抱えながら前をいくこの背中に問いかけたいが、言葉も見つからない。結城君と並んで歩く小湊くんはいつものきれいな笑顔だ。

「哲って伊崎と仲いいね。」
「…最近だな、話すようになったのは。席が前後だし、よく俺が授業中に黒板を遮ってしまうから迷惑かけているな。」
「人当たりいいし気遣い屋だし話しやすいよね。前から接点あったっけ?」
「綺麗な絵を描くクラスメイト、亮介と仲のいい女子とは思ってる。今年はじめてクラスが一緒になったから。」
「たしかに、去年は美術室前にずっと飾られてたもんね。」

やけに褒めてくれるけど何も出ませんよ。とはいえ、素直に絵が褒められるのは嬉しい。大好きなもので、ずっと努力を積み重ねてきた自覚がある。

「結城君、じゃあ私行ってみるよ。 せっかく誘ってくれたし。」

私が後ろから行く行きます、OKですと観念したように肩をすくめて笑うと、二人とも驚いた顔をした。結城君もこういう顔すると大きな体格でも、普通の男の子に見えた。

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