恋の色 | ナノ


▼ 思いがけない出会い

冬のある日。空は青く澄んでいて、そしてそれと同じくらい伊崎の顔は青かった。
あれから、賞をとることが出来て嬉しかったものの、美大の受験のために塾に通ったり、時々母の機嫌を損ねた時に相手にしたりと忙しかった。あの画材をすべて捨てられた日がトラウマでもう家に大事なものは置かないようにしている。神経がすり減る…

「直?ちょっと大丈夫なの、休んだ方がよくない??」
「…」
「次、体育だよ。どうする?」

心配そうに尋ねてくるのは友人の紺野だ。そんな彼女を見ることもなく、机に突っ伏す。

「…一回寝て、気分よくなったら何処へなりとも行くよ。紺ちゃん、気にしなくていいから。行ってよ。」

紺野は心配そうなに私の頭を撫でたあと、荷物をまとめて持ち更衣室へ行く準備をした。

「無理しないように!」

突っ伏したまま手をあげてこたえた。

─‥

誰もいなくなった、教室。
目を覚ましたと言うよりは、寝てなどいなかった。していたことはもちろん、絵を描くことだ。
窓は全開にして、冬の冷たい風がどんなに吹き込んでこようとも気にせず、必死に描いていた。

そんな静まり返った教室に響く、扉の開く音。
それに驚いて、顔をあげる。その目線の先には男子が立っていた。男子は不思議そうに見つめてくる。

「何で、この寒いのに窓を?寒くないのか?」
「え?」

想像していた言葉とあまりに外れた言葉に何回も瞬きをしてしまう、そして、思い出した。そこに立つ男子が誰なのかを。

「あ、結城君か。A組の。」
「ああ、そうだ。」

そう言って近づいてくる結城を見て、思わずスケッチブックを閉じる。その動作を別段気にすることもなく、結城は窓際まで歩いていった。

彼は小湊くんと一緒の野球部の人で、前に似てるなんて言われたから気になって見に行ったことがあった。

「(この人、何がしたいの…)」

見つめる先で結城は、窓を閉めながら言う。

「こんなに窓を全開にしていたら、バレるぞ。」
「…」
「…」

「いっそのことバレて、全部ダメになっちゃえば…気は楽なのかもしれないね…。」

ため息混じりに呟く、その時私はどこか投げやりになっていた。母の圧力に疲弊の一言しかない。

「授業をサボったのがバレたくらいで、ダメになるのか?」
「え…いや、そんなことないけど…」

結城は全部の窓を閉め終えて私の元へと歩いて来た。そんな姿を見つめていると、結城のジャージ姿でA組と合同で体育の授業をしていることを思い出した。

「ねえ、結城君はいいの?こんなところにいて。」
「俺は先生の筆記用具を取ってこいと頼まれたんだ。授業前に、窓が開いてることには気づいていたからな。だから閉めにきた。そしたらお前がいた。」
「…そうなんだ。」

未だわけが分からない。机の前まで来た結城君を見つめると結城君の視線が自分ではなく自分のスケッチブックに落とされていることに気がついた。少しスケッチブックを持つ手に力がはいる。何を言われるのか結城君の言動からは全く想像がつかなかったのだ。

「絵は描かないのか?俺が来るまで描いていただろ?」
「…」

そう言われて何も答えず、スケッチブックを見る。そして先程の続きであるページまで一気に開き、鉛筆をとった。

「…!」

その時、結城は思わず目を見張った。そこに描かれていたもの、それは今まで結城が見ていた景色そのものだったからだ。
伊崎が授業サボり描いていたものは、誰もいない教室から見た外の風景であった。

「上手いな。」
「…そう?」

真顔で頷く結城君につい気を許し、ありがとうと笑みをこぼした。

「誰かに褒めて貰うのなんて、うれしいなぁ。」
「そうなのか。」
「うん。今まで…ほんと必死だったから。ねえ、他の絵も見る?」
「いいのか?俺なんかに。」
「うん!」

スケッチブックを閉じると差し出した。結城君はそれを受けとると、1ページ1ページじっくりと見始める。

「(必死過ぎて忘れてたな…誰かに褒められることが、こんなに嬉しいことだなんて。)」

結城は木の描かれたページに手を止め一瞬伊崎を見ていたことに、伊崎は気づくことはなかった。

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