恋の色 | ナノ


▼ 木と人

とにかく、描かなきゃとスケッチブックと鉛筆を持ち出した。描き始めた絵もあったけどなかなか上手くいかず断念している。この調子だと本当にまずい。母の言葉を思い出す。

『そんなに書きたいなら書いて良いよ。でも、秋の展覧会で賞が貰えないなら将来性なしってことで、部活を辞めて受験勉強に専念しなさい。』

そう言われてから1ヶ月も経っていた。

大丈夫、大丈夫。気持ちが逸るからこんなになってるだけだよ。

昼休みはいつも元気な声が聞こえる野球部の人達は練習をしていない。代わりには楽しそうにバレーをして遊ぶ子達がはしゃいで笑っていた。もしかしたら、うちのクラスの人達もいるんだろうな…
そうこう考えながらいつもの定位置についた。よし、空の色も木の感じも良し。鉛筆を動かし始めると伊崎の世界にのめり込んでいった。

「あれ?」

木の後ろにヒラヒラとワイシャツが見えた。秋なのにブレザーまだ着てないの?まあ、今日くらいの天気ならいらないか。でも、あんなのいつからあったっけ。人が描いてる時にわざわざこの木で休憩しなくても良いのに。

その日は、お互いに顔も合わせずそれぞれの目的のため去っていった。

次の日も木の人はいた。
その次の日もいた。
お互いにいるのは分かっているが声をかけず数日が経過した。少し悩んでいることをぼやきながら頭をかく。

「今日こそ言おうかな…別の場所にしてくださいって…でも、なんか私絵を描いてるだけだし、鬱陶しがられたらやだなぁ。」

「…」
「…!!」

今日、木の人はその日、後ろに隠れずグランドをまっすぐ見据えていた。黒髪に短髪の大柄な男の子だ。意思ある瞳、落ち着いた雰囲気のある佇まいに思わず息を飲んでしまった。

「(この人だったんだ…)」

もう今、描かなかったら後悔をすると思い、つい私はその人を枠のなかに納めてしまった。真っ直ぐで綺麗な目は表現できているだろうか。早く色付けがしたい。

次の日、予感通り、木の人はもう来なくなった。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄¨

「先輩!スランプ抜け出せました?」

後輩が飛びついてくるところを軽く避けながら、私達は美術室で絵を描いていた。

「へぇ、良いですね。木がメインだと思ってましたけど、人物が入るだけで雰囲気が変わるというか…この人、想像ですか?」
「…ここ最近、お互いに譲らず木の所に居たんだよ。」
「良いですね!こう、動きがある訳じゃないけど真っ直ぐに背中というか瞳で語るというか…木も…」

興奮気味の後輩に形になってきてから手応えも感じていた絵に、自信がついた気がした。素直にこの子と本当に一緒の部活でよかったなと思い笑みがこぼれた。

「私、今回この絵でいくから」

ついに、展示会の作品の絵が定まった。母の圧力には屈しない。

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