恋の色 | ナノ


▼ 手放したくない

嫌いな音がする。寂れたこの張りぼてに不釣り合いなヒールを履いた規則的な音が近づいてくる。

ほら、扉が開いた。

小綺麗に整えた茶の髪に、誇張している作り上げた目、長い睫毛、小ぢんまりとした赤色の唇はへの字に曲がっている。雰囲気で分かるよ、今日はまともに話してはいけない日だ。

『ねえ、いい加減にしてくれる?直ちゃん。私、言ったよね、そんなもの早く辞めてしまいなさいって。』

この人は私の絵や画材を見て言い放った。ひどく冷たい目、そんなこと初めて言われたと言い返したら逆に怒られるだろうか。でも、好きなもので本気の物なのに何で母に口出しされなければならないのか。
母は、始めは良いのだ。協力も投資もしてくれるし、むしろ喜んでくれる。でも、何が悔しいのか、何が気に入らないのかは分からないが、突然否定的な言葉を叩きつけてくることが多かった。これがおかしいと友達や同級生の言葉で気づかされたときに、この母に途方もない嫌悪感を抱いた。
母の手が近づいて来るため私は大事な画材の前に庇うように立って遮った。

『ちょっと待って、これだけは嫌。これは本当に好きなの。ねぇ、お願いだからやめて。』

言葉が通じないのだろうか、この人は私のことなんてお構いなしに、手を伸ばし大事なものまで侵入してくる。紙を、鉛筆を掴み、破り捨て折って袋に入れられる。私は必死で手を取り押さえ止めて、袋は蹴りあげる。本当に嫌だった。わかってくれない悲しさもあり、この人が自分にとってなんなのか分からなくなってくる。

『ねえ!!無理!私、高校生だよ!いい加減にしてよ!!貴女のその言動に振り回されるこっちの身にもなってよ…』

その時、頭部に激痛が走る。髪を鷲掴みにされたと気づき、抵抗をやめるしかなかった。母の顔が近距離まで近づき告げられる。

『私の言うことは聞きなさい。貴女のために言ってるの、分かるでしょ。』

その日、私の家から画材も絵も全て失くなった。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄¨
内緒で続けた部活は楽しくて気づいたら後輩が出来て、いつもの吹奏楽部のメロディに耳をすませては心から手放したくない居場所だと思った。この絵もこの道も、この夢も。

「画家になりたいよ。」

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