恋の色 | ナノ


▼ 同じクラスの小湊くん

授業にしては生徒の数は少なく、生徒達は各々好きなことをやっていた。彼等は自習中である。

そんな中、必死になって絵を描くものが1人。

「よーし!できた!!」

伊崎直だ。彼女は青道高校美術部2年である。
伊崎は、隣の席に座る者に自慢気にB4サイズのスケッチブックを見せた。見せられた者は最初は迷惑そうに顔を向けると、スケッチブックを見た途端目を見開いた。そこには自分がいたからだ。

 ̄ ̄¨

「何これ?」
「え?分からないかな。これ小湊くんだよ。似てなかったかなぁ?」
「何言ってるの、似過ぎだよ。俺が言いたいことはそう言うことじゃなくて…」

小湊くんの話を無視して、私は小さくガッツポーズをする。

「ねぇ…」
「何?」
「何でこんなの描いたの?」

少しイラッとしたように黒いオーラを出しながら言う彼に、私は気づく。怖い怖い。嘘をついてもしょうがないからありのままを言う。

「暇だったから。」

満面の笑みで言うと、小湊くんは溜め息をついた後、借りるよとスケッチブックを奪いとる。
えー何でこんなことするの〜って言いたいところだけど、先に仕掛けたのは私か。

小湊くんが頬杖をついて初めのページからペラペラと捲っていく。隣の私には見向きもしない。
スケッチブックに描かれている絵は動物から始まり人物、花、学校の校舎もある。どれも手抜きはしてないから恥ずかしいものは何もない。見るなら見ろって感じだ。

「(上手いな…)」

彼の気持ちは表情からは分からない。内心は小湊くんが感心していたなんて、私は知るよしもない。

「伊崎は画家にでもなりたいの?」
「え、どうしてそう思うの?」
「伊崎みたいな短絡的思考の持ち主なら、そんなこと考えててもおかしくないかなって。」
「なにそれ…」

酷いこと言うなぁ、でも、直ぐに私は笑った。

「うん、私の夢なの。画家になることは。」
「…」

ぶれない気持ちがある限り何度だって言えるよ。
驚いたように間が空くと、いいよね、夢はと今度は小湊くんが笑う。

「でもね、最初はここまで絵は好きじゃなかったんだよね。」
「そうなの?」
「うん、小学校の頃は大嫌いだった。下手だったし。でも小5のある日、少女漫画の裏表紙の絵を見てさぁ、描きたいって思ったのが最初なんだ。」

懐かしむように遠い目をしていると、小湊くんはちょっと待てと止める。そんな小湊くんに何さと聞くと呆れたように言う。

「この前少年漫画が好きだって言ってなかった?」
「最初は少女漫画だったの!小湊君みたいに最初から最後までホラーじゃないの!!
でさぁ…」

話を続けようとする私に小湊くんが怒りを露にしている。でも、彼はいつもこんな私を許容して文句をいいながらも聞いてくれるし、話してくれる。ついそれに甘えているのもたしかだ。
小湊くんからスケッチブックを奪い返しパラパラと捲る、また懐かしい絵が出てくる。

「中学校はそんなイラスト描くのが目的で入ったんだけど、文化祭の時の先輩の油絵が、もう本当に素晴らしくて…。自分も描いてみたくなったの。
それから顧問の先生には沢山デッサン描かされてさ、滅多に褒めない人だったから評価されたときにはすごく嬉しくて。
そんなことやってるうちに、いつの間にか絵を描くことが楽しくなってた。」
「それからなの?」
「うん、そう。」

上手くなれば楽しくなる。それは野球にも共通することだった。

「(伊崎のこの絵は、伊崎の努力の上にあるものなんだ。)」

「今度は横顔描こう。」

そう言って直ぐに集中して、何も喋らなくなる私に呆れつつ、小湊くんは静かに笑っていた。
我ながら振り回してしまって申し訳ないと思いつつ、小湊くんはそれを許してくれる相手…いい友達だ。お互いに遠慮はないから本当に楽だ。

「やっぱり似てる。」

少し時間が経ち、ポツリと呟く小湊くんを観察しながら私はスケッチブックに描いていく。小湊くんとスケッチブックに視線を上下させつつ答えた。

「ん?なにが」
「結城哲也と似てる。」
「知らないな。何組?」
「A組。野球部の奴。」

その時の私は空返事で、その態度を別に気にすることのない小湊くんは、それっきりなにも言うことはなかった。

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