恋の色 | ナノ


▼ 芸術は爆発、私は不発。

授業が終わると少し話をして、その後は皆それぞれの目的のため散っていく。部活とかバイトとか色々。

小湊くんっていつも早くいなくなっちゃう。野球部って大変なんだな。私の通う青道高校は硬式野球部が強くて有名だ。何かに死ぬ気になって打ち込む気持ちは理解できるし、そんな姿は人として尊敬できる。

そんなことを考えつつ私は自分の目的のため、広げてあった本の適当なところに付箋を貼り、それを鞄にしまって教室を出た。玄関へ行く多くの人達の間を縫っていかなければならない私の目的地は、正直面倒だ。でも徐々に疎らになって、人っ子一人いないみたいに感じるこの場所に響く吹奏楽部の音色は、私の密かなお気に入り。
そして、ようやく着いた目的地は美術室。私の部活の場だ。

「こんにちはー」
「ちわ」
「あれ、先輩1人だけですか?」
「そうじゃない?」
「皆、大丈夫なんですかね?美術展近いのに」

知らね、と言う先輩は自身のスケッチブックに視線を落としてしまった。先輩は果物のモチーフを使い、鉛筆でせっせと描いている。
...この人も大丈夫なのか?
そんな不安はあるが、ここの美術部員は皆仕事が早い。本当に間に合うのかと心配になる時期ににきて、さらっと終わらしていく。にもかかわらず、クオリティが高い。毎回こちらとしてはドキドキものだが、素晴らしい絵を楽しみにしてもいる自分がいることも確かだ。毎回と言ってもまだ一回しかその様子を見たことがないけど。
そうこうしてる内に後輩も部室に入ってくる。彼女にも先輩は軽く挨拶し、またしても自分の世界へ没頭してる。

私も描こうと並べてあるイーゼル達の中から自分の絵の物を手に取る。実は、まだ納得のいくものは描けていない。題材は風景にしようと思って、空に木にとか考えていたけれど、何か足りない。これじゃあ、あの人が認めるものが得られない…なんとなくだけどそう感じる。

「…」
「(秋になってから先輩、険しい顔が増えたな)」「なに?」
「何でそんなに辛そうなんですか?三度の飯より絵が好きな人が」
「…そんなことない。今、やるべきこと考えてただけだよ。」

後輩の言葉に詰まりながら答えた。後輩は怪訝な顔で自分の絵に戻る。

分かるよ。今、私は心から楽しめてないことくらい。
でも、あの人の言葉が、あの人の存在が私を焦らせる。あの人に頼りたくないのに、頼ってしまう自分なんてダメ。自分で努力して未来を切り開く力のない子供の癖に。あの家を出ていく勇気なんてないくせに。出口の見えない思考に私は耐えられなかった。

「(ああ!考えない考えない。)」

気づいたら校舎の外に出ていた。
こんなに中途半端で、こんなに苦しいなら、絵なんて好きになるんじゃなかった。

泣きたい気持ちをこらえるくせに、自己否定し更に自分を追い詰めて消えたくなるほど胸がいたくてたまらなかった。

2年の秋、私は描く絵にいつになく悩んでいた。

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