▼ いつだってバカ
「チッ」
小さく舌打ちをする倉持。
その視線の先には心無い言葉の書かれた無惨な机があった。
(早速かよ、陰険な女どもめ。)
視線をこれをやったであろう間違いない少女達に向けると、自分達は関係無いと言うように逸らされた。
(どうすんだよ。これ、めんどくせー)
もうひと睨みし、席につく。
そして雑巾かなにかを濡らして拭いて見るかと、指で擦りながら思案していた。
「ヒデーな、それ。」
「御幸!」
倉持の前に現れた御幸は机を見ると目を細めた。
「なんかあったのか? これといいそらも珍しく来てねーし。」
「なにもねーよ。」
それから天野が登校出来るようになっても陰湿ないじめは続いた。
そんな状況に柄にもなく心を痛めていた天野に倉持は気づいていた。
「倉持…あのさ」
「お前が謝ることなんてなにもねーからな、分かったらいつもみたいに悪態ついてろ。」
「…」
黙ってしまったのは、言おうとしていたことを指摘されてしまったからだ。そんな天野に倉持は、強気な表情を見せた。
「心配するなよ。いじめってやつはやられてる本人がいじめと思わなければ、いじめにはならねーんだよ。」
「…!」
「分かったか?」
その言葉には天野が今まで感じたことのないものがこもっていることに気づく。だが、それを表に出すほど天野は素直ではないのだ。
「別に心配してないし。頼んでもいないことやられて迷惑。煩わしい奴等があんたに行ってくれてこっちは嬉しいの。」
「...そうかよ」
(やっと、戻ったな。お前らしくそれでいてくれよ?)
─‥
寮に戻りグローブの手入れをしようとしていた倉持は、自身のグローブが無いことに気がついた。たしか今日は朝使って置いたはずと、考えていた。
「どうしたんすか、倉持先輩。」
「おいバカ(沢村) ここにいつも置いてあった俺のグローブ知らねーか?」
「バカって読まないでくれませんか! それにグローブなんて知りませんよ。」
「あ? おい先輩にくちごたえか??」
倉持がバカ(沢… いや沢村に技をかけようとしたと同時にドアが開いた。
「おい、倉持…コレ。」
「増子さん? …っ!!」
そこには人為的に傷つけられたグローブがあった。
次の瞬間、倉持の頭によぎったのは
「アイツらっ!!」
倉持はドアを蹴り開け、走っていった。
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