花 | ナノ


▼ いつだって眠れなくて

「御幸の奴スゲー」

野球部のユニフォームを着た少年は歩きながら突然そう呟いた

「そうだな ブランク感じさせねぇし」

「その内レギュラーに返り咲くんじゃね?」

隣にいた同じユニフォームの少年達も頷いた

「それより問題は倉持だよ ここぞという場面でなかなかきまらねーし」

「コンビの亮さん引退しちまったからな?」

「分かんないけどその分俺達にもチャンスは回ってくるって事だし 俺マジで頑張るわ」

その会話を聞く者が1人

「…」

沢村だ

何か思う事があるのか沢村は黙っていた

─‥

時計は午前1時をさしていた
誰も居なくなった屋内練習場でネットスローを続ける沢村だったが流石にもうやめるようで片付けを始めた

沢村は寮に戻ると5号室の扉を開ける
中は真っ暗だった

タオルでしっかりと汗をふきつつ二段ベットの上にいる人物を見ると寝ているのかは分からなかった

布団に潜り込むと二段ベットの上から微かに音が聞こえた それが気になった沢村は声をかけた

「寝れないんですか? 倉持先輩」

「… さっさと寝ろ」

一瞬の間を置き 発せられた言葉はドスのきいた声ではあったが言葉事態は沢村を気遣ったものであった


「......はい」


沢村は倉持の様子がおかしいとは気づいてはいたが眠気の方が勝ったのか返事をしたあと直ぐに眠りに落ちた





(なんで アイツは許せるんだ?)






(なんで あの2人はあんな事があった後でも元の関係に戻れるんだ? )







(帰りを望んでいなかったわけじゃない…でも御幸の顔を見るとどうしても天野のあの日の泣き顔を思い出しちまう)






「…どうすればいいんだよ 俺は」



苦しそうに発せられた倉持の声は暗闇のなかにひっそりと響き 消えた

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