花 | ナノ


▼ いつだって分かっていた

(知ってたはずだ もうそんなこと知ってたはずなのに…俺は)




びしょ濡れの格好で回りの目線すら気にせず天野は走り続けていた

「オイ!」

急に腕を捕まれ止められる

そこにいたのは伊佐敷だった

「離せ」

「どうしたんだよ そんなに濡れて まさかこの雨ん中…」

「離せ」

「そんな格好じゃ風邪引くぞ」

「離せよ…」

強気な言葉とは裏腹に今にも泣き出しそうな天野の顔に伊佐敷はほっとけなくなってしまった

「こっち来い」

「…」

黙ってついてきた天野の腕を離し代わりに渡したのはタオルだった

「使えよ それ」

「…」

「風邪引くだろ そのままだと」


天野にとって優しさは遠い存在である

友達をつくったことがなく 幼馴染みの御幸には毒を吐き 倉持にもそれは同じだった

その2人以外の優しさなんて知ることがなく ましてや他人に優しくされたことなんてなかったのだ

それにより目を丸くして驚いていた

「何驚いてんだよ」

そうすることが当たり前のように見えるその姿に溜め息をつき
「…馬鹿だろ」

「あぁ!?」

何かを言おうとしたものの伊佐敷は天野のタオルを使い始めた姿を見て口を閉じた

濡れた髪をタオルでふくその姿はどこかせつなげでそれでいて綺麗であった
(やっぱ可愛いなコイツ …何やってんだよ倉持のやつは)

「あたしね」

「ぉ! おう」

「…何 びびってんの?」

「びびってねーよ (は 話しかけられた…)」

タオルを頭にかけて天野の顔をのぞくことは伊佐敷にはできなかった

だが天野は顔を合わせようとする気はないらしく独り言のように呟いた

「倉持に酷いこと言った」

「喧嘩か?(コイツの酷い言葉の基準が分からねぇ)」

「くそったれって言っちゃった」

「え!?」

「いつも倉持には心にもないこと言ってるのに今日に限って心から…

心の底から思って言った」

天野は縮こまり頭を抱える

「自分の好きなヤツなのに?」

「そう なのに酷いこと言った

倉持にとって一也はあたしを傷つけた悪者なのにそれを庇うあたしがいて 倉持は許せなかったんだよ

庇わせてる御幸一也が許せなかった

でも本当は分かってるのくそったれは一也でも倉持でもない

あたしだってことくらいあたしは分かってる」

「…」







「あたしは倉持を傷つけた」

prev / next

[ index/ bkm ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -