▼ いつだって俺に出来ることを
俺はあの出来事を大事にはしたくなかった。だからまず監督に相談をした。監督は話し合うとは言っていたけれど、あれから御幸はいっこうに練習に顔を出さない。名前を伏せて御幸の事情を部の皆には話していたが、周りには辞めたんじゃないか、もしくはもう学校自体を辞めたんじゃないかと噂された。
俺は御幸が理解できない。
だからといって、アイツほどの男が本当にこのまま野球をやめてしまうとも思えない。
─‥
「はよぉ」
「朝から眠そうな顔してるんじゃねーよ、クソ倉持。」
天野は相変わらずだ。
でもあの時は本気で悲しんでた。泣くことを知らないみたいに泣かないアイツが、御幸のために。
“なんで、あたしなんかを好きになるの? あたしのせいで一也が…”と言っていた。
泣いてた。
御幸は笑ってた。
「…」
「キモッ」
「は? 何でだよ。」
「普段よく喋る奴が黙るのはなんかキモい。」
「お前っ、そりゃねーだろ。俺だって色々あの時のこと考えて…あ」
ヤバいつい口走っちまった。禁句だよな。
「ごめ…」
その時の天野は本当に寂しそうな顔で、でも笑った。
「倉持、あんたは悲しみが悲しみで繋がらないような人の愛しかたをしてね。」
...ん?
「え…それって俺達付き合うっていうこと…か?」
「は?自惚れんなクズ。」
でも俺達は、こうして付き合うことになった。
天野が今までみたいに悲しい顔をしないように...俺はそうしたい。
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