花 | ナノ


▼ いつだって真実は残酷

告げられた真実。

(御幸が…? ありえねーだろ… 誰が信じるかよ。アイツは天野の幼なじみだ。)

それはあまりにも残酷で、倉持にとっては疑問だらけであった。
倉持は少女達との会話を思い返す。

『私達も言われた時は、御幸君大丈夫?って自分の言ってること分かってる??って聞いたんだけど…』
『なんかいつもと雰囲気違くてさ。』
『怖かったよね。』
『私達結局従ったんだ、それだけなのホントに。』

倉持は突然のことで信じることが出来ない。

『俺のグローブは?』
『…あれもそう。』

倉持が恨みがあるのは少女達であって、御幸ではない。いきなりその矛先を変えろと言われて、そう易々と変えられるものでもないのだ。

(わけわかんねー)

疑問だらけのまま、倉持は部活に向かう。

「倉持先輩、ちょっといいですか?」

沢村と小柄な少年が話し掛けてきた。

「春っちが見付けたみたいで…」
「単なる嫌がらせとかかと思ったんですけど…前に倉持先輩がそういうの受けてたって聞いたので、それに関係あるのかと思って。」
「おい沢村、なに話してんだよ。」
「…すみません。」

沢村があまりに素直に謝るので、倉持は拍子抜けしてしまった。わけが分からないまま、倉持は2人のあとをついていく。寮の裏側はあまり人が寄り付く場所ではない。その様な所を足早に進む2人は終始無言であった。
だが、次の瞬間朝の光景が蘇った。

「酷いもんですよね。」
「寮のこんな奥にあるくらいですから、寮に住んでる人達位ですよね…こんなことできるのは。」

生き物の死骸の山に、言葉も出ずにいた倉持。頭の中には少女達の言葉がこだまする。

(本当にアイツが?)

─‥
倉持は、真実を知る権利がある天野を屋上に呼び出した。

(倉持の奴、何なの? 呼び出しといて俺達が話す内容を隠れて聞いてろとか、命令口調とかウザっ!)

屋上の扉からは見えない位置で、倉持を見ていた。後から入ってきた御幸との話を聞く、その行動が何を意味するのか天野にとってはわけがわからなかった。

(...? 一也??)

御幸の様子がおかしいことに天野は気が付いた。天野と接する時とは僅かに異なる御幸の様子、それは付き合いの長い天野にしか分からないものであった。

「御幸、本当のことを言えよ。絶対に嘘つくなよ。」
「はっはっはっ 無理。」
「茶化すな。」

倉持の真剣な顔を見て御幸は態度を変えた。

「何だよ。」
「天野のいじめを、お前は何でほっとけるんだ?」
「前にも言っただろ?同じこと言わせるなよ。」
「じゃあ質問を変える。お前は、天野の事をどう思ってる?」

(は? なに聞いてるの。...一也??なんでそんな顔....するの?)

御幸の顔は明らかにその質問で変わった。

「好きだよ、俺は昔からそらが。
でも、俺は普通の奴とちょっと違う。そらのいじめられてるときの微かに見せる、悲しい顔が好きなんだよ。他にも俺だけに見せる、他の奴には絶対に見せないアイツの色んな顔が好きで好きで好きで…わかんねーだろ?」
「…じゃあやっぱり今までの事はお前が。」
「何だよ、やっぱりアイツら話しやがったか。 だからお前は嫌いなんだよ。」

御幸は倉持を見た。その形相に倉持は御幸の異常性を感じる。

「お前!言ってることおかしいぞ!!やってることも…生き物を殺す!?アイツ苦しめてそれが…その顔が好き?お前本当に、大丈夫か??」
「うるせーよ。別に俺だって、そらに自分から手を出すつもりなんて無かったよ。あのくだらねー女共がやってるの見てるだけで十分だった。」

信じられぬ言葉。
御幸のあまりの豹変ぶりは目を疑うざるをえなかった。倉持も、そして天野も。

「お前が告白してからだ。アイツが俺だけにしか見せなかった顔を、お前に見せるようになったのは…」
「え…」
「お前もそら自身も、気付いてなんていなかった。だけど俺は、その変化が腹ただしくてならなかった。俺だけのものがお前に知られることが!!」

怒気のある視線を送る御幸。

「だったらなんで俺を助けた!? アイツのこと好きだって知った時、近付かないようにすればよかったんじゃないのかよ!!」
「うぜーよ。」
「御幸…!」
「楽しそうだと思ったんだよ。もっとそらの色んな顔を見れるからって…でも、お前ごときにあんな顔するようになって…許せなかった。」

まだ、ただの女の喧嘩としていじめが続いていた日々。それは御幸にとってシアワセな日々であった。その日々を思い返すように、遠い目をした。だが、それらの日々をなぞれば必ずたどり着く場所がある。それは、倉持と接する事で変わった天野だ。

「だからあの日の練習が始まる前、女共に頼んだんだよ。再起不能になるまで、ゴミクズ同然の扱いでいたぶってくれって。そしたらアイツら怯えた目をして俺を見て『なに考えてるの?』って言いやがる。ちょっと机を蹴って脅せば直ぐにやってくれた。」
「てめぇ」

握りしめた拳を倉持が振りかぶると、制するように御幸は素早くその拳を掴んだ。そして倉持の手の甲に御幸の爪が食い込む。その痛みに倉持が顔を歪めると、御幸は真顔で言う。

「聞けよ。
…お前があんな行動に出てからは、それは面白かったからよかったけど、そらがお前に謝ろうとしたって聞いたときは許せなかった。だから、お前のグローブをアイツらに渡した。でも、全てが...裏目裏目に出てよ。 悲しいぜ。」

食い込む御幸の爪を振り払い、倉持は距離をおく。目の前の御幸の言葉に倉持は、天野の事が気になった。

(天野は何を今思っている…俺ですらこの状態なのに。)


「なぁ倉持、死んでくれ。」

その言葉と同時に、御幸が制服のポケットを漁ると取り出したのはナイフだった。鈍く輝く鋭いナイフが、空気を切った。倉持が迫ってきたナイフを避けたのだ。避けても尚、ナイフが襲う。

「一也ぁあ!!!」

御幸の名前を叫び、駆け寄ろうとする天野。

「そら?なんでお前が…」


御幸はその隙を付いた倉持に取り抑えられた。


(笑うなよ、そうだ。
お前のその悲しい顔が好きだから、できればずっと....俺に向けてくれ。)

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