▼ いつだって悲しい顔する君が好き
教室の中心の少女は静かに拳を握りしめた。
「生き物殺すとかマジでありえない。」
「天野…」
天野は勢いよくドアを開け、教室を出ていった。倉持は無言で教室を出ていき、掃除用具で静かに死骸を片付け始めた。
「お前らかよ、これやったのは。」
そう言い、倉持の怒りのこもった目線の先はあの少女達。
「やるわけないでしょ...こんなこと..」
「…」
生き物の死骸に、あの少女達ですら青ざめていた。
その少女達を含めたクラスの全員が思った、やり過ぎであると。
(本当にコイツらじゃないのか? じゃあ誰が…)
目の前の光景を信じられないと言う様に見つめる者達がほとんどの中、ただ1人笑う者がいた。気づかれぬよう、そっと。
天野は授業が始まろうとも帰っては来なかった。運動部に所属する者がよく使う洗い場に居たのだ。授業中の今、そこにいる者は居ない。だからこそ、天野は誰も寄り付かないここへ来たのだ。
(なんで? 殺す必要がどこにあった、誰がやったの? いつものアイツらが…違う。アイツらだって青ざめてた。)
天野は蛇口をひねった。微かに付いた指先の血を洗う。その時、天野はあの死骸がフラッシュバックし思わず目をつぶった。
(命を奪うなんて…あたしのせいで。あたしがいなければよかったんじゃ…)
天野は水を出しただ見つめていた。
自分がいじめを受けるのは自分のせい。
いじめるのはいじめる者の責任。
では、殺される生き物は殺される生き物が悪いからなのか。
己の考えに疑問を感じ、そして天野の目には涙が浮かんでいた。
「泣いてんのかよ。」
「!」
天野は声に驚き、急いで顔を洗う。そして持っていたハンカチで顔をふき振り返った。声の主は御幸だ。
「泣いてない、顔洗ってただけ。」
ジャーと流れる水に、御幸は視線を移す。
「水…勿体無いぞ。」
「煩い。」
呆れて御幸は蛇口をしめた。
「1限、もう終わったけど。」
「煩い、一也こそ授業さぼっていいの?」
「自習になったみたいだから抜けてきた。」
「じゃあ、あたしだって自習じゃない ふざけてるの?」
「そうだな。」
その言葉にイラついた天野は、そもそもの質問をぶつける。
「なんで一也がここに来たの、バカじゃない?」
御幸は満面の笑みで言った。
「お前のそんな顔見られるのなんて、貴重だからな。」
「…」
「何?」
「その性格の悪さ…頭にウジ虫でも沸いてるんじゃない?」
「.....」
─同時刻‥
「倉持、話があるんだけど。」
あの少女達が話し掛けた。
「…」
倉持の不機嫌な顔に少々怯えるも
「あの人が居ないから言うけど。」
「天野へのいじめは途中から…」
一瞬迷ったように目を泳がせた少女を倉持は見逃さなかった。
「指示されてたの、御幸くんに。」
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