花 | ナノ


▼ いつだって優しくあってくれ

「倉持先輩!!」

後ろで倉持の名前を呼ぶ沢村を無視して、倉持はドアを蹴り開けた。
ドアが勢いよく閉まると、取り残された2人は唖然とする。そしてグローブへと視線を移すと、革で出来ている頑丈なはずのグローブが声もなく泣いているような、そんな錯覚さえ感じられていた。

「増子先輩、まずいですよね。このままだと倉持先輩…あ!!」
「どうした、沢村ちゃん。」
「倉持先輩が好きな人俺知ってるんすよ。その人だったら、もしかしたら止めてくれるかも…」
「その人の連絡先なんて知らないだろ。」
「倉持先輩の携帯…置いてってますね。俺、見ます!」
「お、おい…」

緊急事態であるから仕方なしと、普段は弄れない倉持の携帯に手を伸ばす沢村は急いで電話帳をあける。

「あれ、入ってない。」

─‥
(許せねーアイツら。野球のことにまで手ー出しやがって)

倉持が放課後になり人気がなくなった校舎を宛もなく探していた頃、少女達は教室にいた。

「ねーやっぱりさっきのグローブ、ヤバくない?」
「いいんだよ。臭いし汚いし、ちょうどよかったんだよ捨てるのには。」
「グローブじゃなくて倉持が。アイツなんか元ヤンって聞いたことない? アイツキレたらヤバイよ。きっと…」

ガンッ!!と扉を蹴る音が静かな教室に響く。
直ぐに少女達は後ろを振り向いた。

「テメーらふざけんなよ」

「!!」
「え… うそ」
「学校内の事だけじゃなく、野球のことにまで手ー出しやがって。お前らほんとに腐ってんな。」

怒りに身を任せ倉持は拳を握った。

「な、何よ。暴力?いいの??そんな簡単に手を出して。」
「かんけーねーよ。」

胸ぐらを掴もうと倉持が手を伸ばし、拳をふりかざす。
その時走って来る音が徐々に近づき、この教室の前で止まったことに少女の1人は気づいた。その人物は、倉持をその目に捉えると叫んだ。

「倉持!!!」

走り出し、振りかざした倉持の拳を懸命におさえる者、それは天野だ。

「天野、はなせよ。」
「嫌だ。」
「はなせ。」
「嫌!」

首を横に振り天野は言うことを聞こうとしない。その様子に倉持は悲しそうに眉を寄せる。

「大事な物まで傷つけられたんだっ!」

倉持は拳にさらに力を込めた。

「ダメっ!!」

天野は下を向いた。倉持の視線から逃れるように。

「倉持は.....倉持だけはっ...」

天野も抑える手に更に力を入れた。倉持が本気を出せば振りほどけるにも関わらず。

「暴力を振るうような…弱い人間にならないで。」

あの天野が傷付いた時の様なか細い声。それが倉持の心を締め付けた。

「天野...俺は昔もっと悪だった。だから、俺はもうお前の言う弱い人間になってんだよ。だからもうはなしてくれ。」
「野球好きなんでしょ?」
「!」
「このまま暴力ふって野球出来ないようになってもいいの!?」
「…」
「...ねぇ、お願いだから倉持だけは.....」

自然と下ろされる拳と襟を掴んでいた手。拳にはもう力は入っていなかった。

「…ごめんな。」

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