最近心配なことがある。
なんか最近の亮介は私に隠してることがあるように見える、と言うこと。

何で教えてくれないの?
寂しいよ…亮介。

─‥

「え?兄貴の知り合いなんですか??」

「うん、そうだよ。」

正確には恋人だけど。
そう思いつつ話している男の子はあまりに亮介と後ろ姿がそっくりだったので、声をかけてしまった。どうやら亮介の弟のようだ。

もー亮介ったら、弟がいるなんて聞いてないよ。もしかして、隠してたことってコレ?

「兄貴が何か?」

「え?あー、…ごめん。なんでもないよ。」

「?」

不思議な顔をする弟。何を話したらいいのか、全く思いつかない。はっきり言って亮介以外の男の子と話すことなんてない。私はホント亮介以外に興味がない。
頬をかいて愛想笑いをする私は、前髪で隠れ決して私からは見れない目に不審そうに見られている気がしてならなかった。
どうしよう…あ。

「小湊…何て言うのかな?」

「春市です。」

「私は麻日奈桜。よろしくね、春市君。」

なんとか笑顔を作り、その場を離れた。

─‥

授業ではずっと亮介のことを考えていた。

亮介のことを知ったのは入学式。
男の子にしては小柄で、一際映えるピンク色の髪色。

一目見たときから、心を奪われていたような気がする。

それから、野球部に所属していること、見た目に反して毒舌であること。色んなことを知っていった。
この2年とちょっと、私は亮介の全てを知っている。と、ずっと思っていた。

思ってたはずなのに…

"小湊春市"

この子は私の知っている亮介のそれまでを知っている。家族なら当たり前のこと…でも私はそれが許せなかった。
狂気じみてどろどろなこの感情は嫉妬という言葉が一番あっているのかもしれない。

心の奥のもう1人の自分が言う、冷めた視線を携えて…

"バカじゃない?この恋事態がそもそも間違っている。"

そんなことない。そんなことない。そんなことない。
必死に自分にそういい聞かせ、スカートのひだのことなど気にせず、強く強く握りしめた。


次の日、私は小湊春市に話しかけた。
亮介の過去を知るには手っ取り早い方法だと思ったからだ。嫉妬なんてすることない。利用価値のある、素晴らしい存在じゃない。そう思うと心が楽になった。小湊春市は亮介のことを自慢気に話していて、心から尊敬していると言うことが伝わってきた。

「麻日奈さんは、兄貴のことが好きなんですか?」

突然そんなことを聞かれ、戸惑って答えられないでいた。

好きだって答えたら、恋人だって言ったら…この子になんの得があると言うのだろうか。自分が他人よりも知識がちょっとあるくらいで、優越感にでも浸りたいの?
ほら、また出てきた。どろどろとしたこの感情。

この子はどうも私のカンにさわる。

私は睨まないように少し視線を下に落とした。

「えっ、違ってましたか?麻日奈さんは兄貴のことを話しているときだけ…なんだか優しく見えたので…」

「…何それ?まるで私が普段は優しくないみたいじゃない。」

そう冗談っぽく小湊春市の顔に視線を移して言うと、小湊春市は慌ててそういう意味ではなかったと弁解しようとした。

ちょっとは、…良いこと言うじゃん。

その時、どこか小湊春市のことを好きになれたような自分がいた。


それから数日後、奇妙な事が起きる。

廊下を歩いていると小湊春市を見かけた。授業と授業の間の短い休み時間なので、特に気にすることもなく通り抜けようとした。

でも、小湊春市は違った。

私が廊下を歩いてくることに気がつくと、一緒にいた背の高い男の子の後ろに怯えるように隠れたのだ。その時は前まであんなに私になついていたクセに、やっぱりこの子は私のカンにさわると内心悪態をつきながら、足早に通りすぎた。

そして次の日、私にとって最悪なことが起こる。

隣の教室にいる亮介は必要なことがない限り教室から出てこない。私はそれが不満だけど、別に言ったりはしない。だって、色々文句を言う女ってどうかと思うし。
そんな亮介が、珍しく廊下に出て話していた。私は嬉しくて、私に気がついてほしくてずっとそれを離れたところから見ていた。亮介は大体私には気がつかずに教室に戻ってしまうことが多いんだけどね。

そう、何時ものように考えつつ見ていたら…亮介と目があったような気がした。細目でよく分からないけど、私にはわかる。そして何故か私を睨むように眉間にしわを寄せ、すぐに目を逸らし去っていった。

そのあとの授業で、私は混乱していた。

何で亮介にあんな態度をとられてしまったのか?

私が亮介に何をしたのか?なにもしてないはず…なのに何故?

あ、でも亮介と目があったのは嬉しかった。
いやいや今はそんなの関係ない。


何がいけなかった?何が悪い?誰がいけない?

なにをマチガエた?


"小湊春市"、そうだ"お前"だ。

お前が亮介に何か言ったんだろう?昨日のあの態度、明らかにおかしかった。

やっぱり、お前はいらない。


─‥

深夜、月明かりに照らされた青心寮という文字には目もくれず、私は静かにそして素早く歩いていった。名前の書かれた札を端から確認していき、一階にはないと分かると直ぐに二階への静かに階段を上った。また、札を確認していくと…見つけた。

亮介にきっと私は嫌われた。だって、あんなに化け物でも見るような軽蔑した視線を向けられたんだよ。もう、終わりだ。

もう、終わりだ…だから、小湊春市も道連れにしよう。

全部、お前のせいなんだからさ。


「…何しようとしてるの?」

「!」

この声は知ってる。振り向かなくても分かった、でも振り向きたくない…振り向きたい。

怖くて手が震えたのがドアノブから手を外すときに分かった。恐る恐る振り向くと、月明かりに照らされた亮介がいた。

ねぇ、こんなあなたの弟に嫉妬してしまった私をどう思う?

私が何をしようとしていたか分かった?

嫌いになった?


「君は一体…誰なの?」

告げられた言葉に愕然とした自分と、そんな自分をまた冷ややかに見つめる自分がいた。


そうだ、忘れてたよ。亮介が好き過ぎて、忘れてた。


終わってなんかいない。

初めから、何も始まっていなかったのだから。







マチガエは初めからワタシだった。

それに気が付いた途端、

亮介の髪が今までよりずっと綺麗に見えて、哀しかった。



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