やんちゃと言えばやんちゃ。
ワルと言えばワル。
それが15才の私だった。
そんな私は最近つるみ始めた仲間とダベってたら、懐かしい奴を見かけた。
「洋一!」
「んぁ?」
「久しぶりじゃん、ってかなにその頭ウケるんだけど。」
「うっせ!」
洋一は家が近所で小さい頃、よく一緒に遊んでた。派手な髪色になってて少しビックリしたけど、昔からやんちゃ坊主だったしそういう可能性もあったんだと妙に納得してしまった。
あれ?でも、こいつって野球やってなかったっけ?かなり上手かったのに…
「まさかアンタ、野球辞めたわけじゃないよね?」
「…チッ」
「は?ガチなの…」
話を聞く限りは、仲間のために市議会議員のお坊ちゃんぶっ飛ばして推薦もらえるはずの学校が全滅したらしい。部活にも今は参加させてもらえず…と。
「アホか。」
「…うるせーよ。てめぇには関係ないだろ。」
「関係無い奴に気ぃ許しすぎだろ。話さなきゃよかったんじゃねぇの。」
「だってそれは…桜だから…。」
「…」
子供からの付き合いということもあって、最初はめんどいって気持ちもあったけど度々会うようになった。
段々悪くなってくのかなとか思ったけど、やっぱりそういう奴じゃなかった。そうだよな…スポーツ何年も続けられるような奴がそう簡単に悪くなるわけないか。まぁ少し偏見もあるけど。元々やんちゃな奴だからそういう奴等とつるんでるだけで…人間的には悪い奴じゃないし。
…そうだよな。
「アンタやっぱさ、こういうの似合ってないって。」
「いきなり何言い出すんだよ。」
「色々考えたんだけどさ、洋一にはやっぱり野球が一番合ってんだって思ったんだ。悪い奴等とつるんで気に入らなかったら殴りあい…そんなことよりさ、洋一は野球でプレーしてる姿が格好いいって思った。」
そう言って洋一を見ると随分と照れていて、それを可愛く思った私は頭をぐしゃぐしゃと掻き回してやった。
「考えなよ、まだ道はあるかもじゃん。」
そう言うと、もうだめだよとでも言いたげな目をして洋一は笑った。
そんな洋一に何かしてあげたくて、でも何もできなくて。悔しかった。
そんな時思い浮かんだ事は、バカな頭から絞り出したにしてはなかなかの名案で、私はすぐに動いた。きっと洋一の昔からつるんでる奴等と考えれば、きっと何か出てくると思ったんだ。
でも、そんな風に洋一のことを考えてたのは私だけだった。
「洋ちゃんの?あーアンタ洋ちゃんの近所のヤツか。」
「俺らもう他の高校行ってくれた方が助かるって思ってたくらいだし。」
「野球続ける気ないから。」
殴る気にもなれなかった。殴りたいって気持ち以上に、この言葉をもし洋一が聞いたらと思うと胸が痛んだ。
もう…洋一は野球を続けられない。
柄にもなく泣きそうになって、洋一の元へ向かうと洋一は今までにない顔で笑っていた。こっちはアンタのせいで泣きそうになってるっていうのに、なんだそのムカつく顔。睨み付けるとそんなの気づかなかったらしく、洋一は言った。
「東京、行けるんだよ!」
「は?」
「青道から今さっきスカウトが来たんだ。」
青道?たしか…名門の?
「すごっ!すごいじゃん、洋一!!」
「ああ、じゃっ!俺行ってくる。」
「え、どこに?」
「アイツ等んとこ。」
直ぐ様走って行ってしまった洋一。さっき会ってきたアイツ等のとこに行ったんだろう。もし…アイツ等の本当の気持ち知ったら…。悪い予感がして私は洋一を追いかけた。
でも、無情にも勘は当たってしまった。
本当のことを知った洋一は、たかが野球なんだと思ってしまうようになった。所詮他人事なんだから誰がどこで何をしようが関係無い、たかが野球なんだからと洋一は言った。
私とつるむ回数も徐々に減っていき、東京に発つ前日に会う約束をしてそれっきり会わなくなってしまった。
約束の日、1人で歩いていた。
洋一に久しぶりに会えるからちょっと嬉しくて、それでも少し寂しさはあって…。まぁ行こうと思えば直ぐにでも行ける距離だし別にいいという気持ちがあった。
そんな時、声が聞こえてきた。倉持ってさと。普段なら聞き流していたかもしれない。でも、倉持は倉持洋一かもしれないと一瞬思ってしまい聞き逃すことができなくなってしまった。声のする方に目立たない程度に近づくとはっきりと聞こえてきた。
「じゃあ、そう言うことで頼むわ。」
「本当にいいのかよ、市議会議員の息子さん。返り討ちにあうぜ、きっと。」
「やられっぱなしじゃ、腹立つからな。それにこれで手を出せば、全部アイツの責任だ。」
それは、洋一が青道にいけなくなるということ。そんなこと…させるかよ。
そう思ったら体がもう動いていて、私は思いっきり飛び蹴りをかましていた。
「て…ってめぇ!またしても飛び蹴りしてきやがっ…」
「おい…離せっ」
「…」
「何で何も喋らないんだよ…っ」
またしても?知るか。それに洋一の名前だしたら、いらない火の粉が飛ぶかもしれないし。
数人の男相手にその日は次の日の朝になるまで殴りあった。お互いもうボロボロになり、私に至っては体がほとんど動かなかった。目立たない場所までやっとの思いで移動して、固くていたそうだとは思ったけど寝転がった。
イタ…何であんな後ろから鈍器みたいな固い物体使って殴ってくるかなぁ。男だったら素手で勝負しろよ。
血の味が気持ち悪くて吐き捨てると頭にも痛みが走り触ると血が出ていた。…やば。
携帯を探して見ると、洋一から何件か電話やメールがきていた。昨日約束すっぽかしたし…連絡しなかったからなぁ。駄目元で電話をしてみると、洋一は出てくれた。
〈お前今何処にいるんだよ!?〉
心配してるのか声は怒っていた。私とは対照的に元気そうで何よりだ。
「教えない。」
〈はぁ!?こっちは心配してたんだぞ!〉
「そりゃどうも…」
軽いノリで笑うと体に響いて結構痛かった。そしてまた口の中の切れたところから血の味が広がり、それをさっきと同じ様に吐き捨てた。そんな私の不自然な様子に気づいた洋一。
〈お前今何処に…!まさか喧嘩とかしてたんじゃ…〉
やっと洋一の声が聞けたのに、説教なんて聞きたくない。私は私の言葉で洋一の言葉を遮った。
「洋一はさ、たかが野球って思ってるかもしれないけどさ、青道の新しい環境で出会う人達とやった方がきっと洋一は輝けると思うんだ。だからこれから頑張れよ…」
〈何言ってんだよっ、そんなこと直接会って言えばいいだろうが!〉
…駄目に決まってんじゃん。今日、洋一は発つ日なんだし。私に構うな、前だけ見ろ。
「私は洋一の野球やってるところが一番かっこいいから好きなんだ…だから、腐らずにちゃんと続けろよ…」
洋一の返答をまともに聞かず私は通話を切った。足も腕ももうほとんど動かない。だから、残ってる力で今まで洋一と会話をしていた携帯を握り締めた。
洋一…頑張れよ。
最後にアンタのために何かできてよかった。
また会いに行って、また野球してるとこ見て、それでその時あの変な笑い方で笑っていて欲しい。
ずっと前から野球をしてる洋一が…
「…あ」
もしかしたら私はずっと…
洋一のこと…好きだったのかもしれないな。
薄れゆく意識の中、洋一が私を呼ぶ声が聞こえたような気がした。
その洋一はなんだか怒ってるみたいで、泣いてるみたいで、なんだかそれが私には可笑しくて。
馬鹿野郎と言いながらもおんぶをしてくれた洋一の背中が昔を思い起こさせて、懐かしかった。
「洋ちゃん…ありがとう…」
心地のよい背中
無意識に出た名前に驚くこともなく洋一はあぁと一言、返事をしてくれた。