惚れた理由なんてもんはいたって単純だ

普通の女に比べれば少し地味でそれでいてうるせぇ女でもなかったからそれが気に入って俺から

『彼氏いる?』

と聞いたのが最初だった

『それを聞いてどうするの?』

『聞いてるのは俺だろ?』

『…』

俺が考えていたよりは面倒な女と最初話したときは思ったけど

『いない』

その時桜が頬を赤くしてムスッとしたように言うから

案外こいつは面白いヤツなのかもしれねぇとつい笑った



最初はホントにそれだけだった


─‥

「いてぇ…」

左頬がじんじんしてムカムカしていた
あの女ちょっと俺が相手してやったくらいで調子にのりやがって
俺はお前の所有物じゃねぇんだよ 糞が

監督にバレねぇように俺は休憩してた奴等の中に紛れ込み何事もなかったような顔をする
皆の視線はもちろん感じてはいるが知ったこっちゃねーよ 俺は俺 お前らはお前らだろ

「ついに麻日奈に殴られたか?」

「…」

ニヤニヤして聞いてくる倉持は俺のタラシぶりをどっから仕入れてくるか知らねーが全部把握している その上であえてその名前が出てくるこいつの意図は全くわからないのだが…

「ちげーよ」

それだけ言うとその場を去った

アイツはまだ泣いているだろうか?
俺のことを嫌いになっただろうか?

頭の中はそんな不安や焦りがいっぱいで練習どころじゃなかった



「やっぱ 好き…なんだよな」



─‥

どうしても人間には上手くいかないことがある
どんな馬鹿にだってどんな真面目な人間にだってそして俺にだって…

今となってはどうってことない理由だがその時の俺はどうしてよもなくイライラしていた そんな俺は桜を呼び出しこのどうしようもない気持ちをぶつけようとしていた
壁に追いつめて肩に触れようとしたとき 桜は怯えるわけでもなく俺の目を見て俺の手を掴んでいた

『やめて』

『…』

『御幸 今イライラしてる ぶつけようとしてる 私を…女の子を逃げに使わないで』

『逃げ? 何言ってんの お前俺のこと好きじゃないの?』


何で止める? 何で拒否する? 何で嫌がる?


『好きなやつにどんな形であれ抱かれれば嬉しいだろ』

『嬉しいわけない
だって…逃げにされて全然自分のことを見てくれないって分かってるのに抱かれて 御幸は現実逃避のために抱いて

そんなのお互い寂しいだけじゃない』


寂しい…か


『私を逃げにしないで ちゃんと自分のダメなところを受け止めて』

『…』

『一緒に考えよう そういう2人になろう』


そんな風に考えたことなかったな…

あの時桜は泣きはしなかったけど俺は涙がでた
そして桜が俺の手を優しく包んでくれたあの手がどうしようもなく愛しく思えたんだ



だから別れた

こんな俺と一緒にいたらいつか傷つけることになるから
守りたいから 泣かせたくないから

今でも別れを告げた時の痛みが消えない

でもこんな痛みはどうでもいいと思う



この痛みのお陰であいつを傷つけずに済むのだから


─‥

いつの間にか寝ていた俺

しわくちゃにした布団の中から携帯を探し見ると一件留守電が入っていた

「(…なんでこいつから 23:12ってどんだけ遅くにかけてきたんだよ)」

《─さっさと校舎裏に来い グズ》

「(…どこの女王様?)」

後が面倒だと思い俺は校舎裏へ向かう
時刻は夜の1時を過ぎていた
もういねぇだろと思ったがその考えは甘くアイツは仁王立ちして待っていた

「なにしてんの?」

「こっちの台詞よ!! あんた今まで何やってたの!?」

「寝てた」

欠伸をして見せると更に青筋をたたせる結果となってしまった

「で 何しにきたの?」

「桜のところに今すぐ行きなさい」

「は?」

「今すぐ行ってもう一度好きだって言いなさい」

とんでもないことを言うこの目の前の女に俺は一瞬で目が覚めた
いやいやいやいやいやいやちょっと待て

「何言ってんのお前…」

「あんたぜんっぜん分かってない 傷つけたくないとか泣かせたくないとか言ってるわりに桜を今一番傷つけている原因をあんたはぜんっぜん分かってない!」

「! 俺と一緒にいたらいつか傷つける だから別れた 分かってないのはお前だ知ったかぶりするな」

「はぁ?」

平手がとんでくる気がして目をつぶる
いっこうに痛みがこないので目を開けるとそこには倉持がいた

「やめとけ」

俺達の口喧嘩を止めたのは倉持だった

「御幸 お前ホントにこいつの言うことがわからねぇのか?確かに命令口調でムカつくが言ってることは間違ってないだろ」

「…」

「…麻日奈と別れる必要は無かったんじゃねぇのお互い好きなら 結局別れたことがお前らの一番の傷になってんだから」

「本当よ 馬鹿みたい」



「…行ってくる」

確かに馬鹿みたいだ…あの時あんなに考えて別れる選択に至ったのに今じゃこんなにも別れたことが一番の痛みだなんて

─‥

「ホントによかったのかよ?これで」

「うっさい」

「友達思いでなにより」

「うっさい」

後押ししたのは私 もう御幸のことは吹っ切れた 桜が幸せならそれでよし

そう心に決めると桜のもとへ行った筈の御幸が戻っていた

「いい忘れてたけど俺 お前のこと桜の次に気に入ってたから」

「は?」「…」

「殴られたことはあったけど背負い投げする女なんてそうはいねぇからな(笑)
じゃ!行ってくる」



「…御幸 ぶっ殺す」






「待たせて…ごめん」

「…ばか」



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