▼ 話せるように 1
貴子さんと作った差し入れはちゃんと皆食べてくれたらしい。貴子さんは私のおにぎり美味しそうに食べてくれてたよとは言ってくれたけど、おにぎりなんて誰が作っても同じように思う。でも、喜んでくれたのは嬉しかったな。
ちなみに私はその時も物陰からこっそり見ていた。
貴子さんとお話が出来るようになってよかった。やっぱり女の子は喋りやすい。
今日も私は昨日と同様に1年生達を見ているわけだけど、貴子さんがまた来てくれないかなと待ってもいた。でも、今日は来てくれなくて早く帰ってしまったのだろうか?と少し残念に思った。そんなうちに1年生達の自主練は終わったから、よし帰るかと哲くんを待っているとなかなか来てくれない。こっそり見てみると、哲くん達は話をしている。
あーもう少し時間かかるなこれは…暇だよ。
「何でそんな物陰からいつも見てるの?」
「!」
背後を振り向けばそこにはあの小柄な人が立っている。にっこり笑って。
…何で皆私を驚かせるの!?
「前までは哲のこと側でずっと見てたんじゃないの?」
「…そう..だけど。人が...」
「何、人が多いと嫌なの?」
その言葉に慌てて首を横に振って否定した。そう言う訳じゃない。ただ、邪魔はしたくないだけ。それと…話しかけられても黙ってしまいそうだから....つまりは..
「喋るの苦手なの?」
「....初対面の人とは..緊張して..」
「ふーん」
な、なんなんだこの人。
いや、確かにいつもこうしてこっそり自主練を見てたり、練習を毎日見てたりすれば気になるのは分かるけど。
「じゃあさ、俺と話す練習してみる?」
「え!?練習なんてあるんですか?」
つい大きな声で聞き返してしまった私はクスクスと笑われた。恥ずかしい…
「練習なんて1つしかないでしょ」
「え」
「沢山話をするんだよ」
あー成る程成る程。そういうことね…私とこの人で今からお話し…お話し!?
「あの....」
「ん?何」
「..何でそこまで私に...」
何か裏があるかもしれないと思いじっくり顔を見つめると、この人は変わらずにっこり笑っている。分からない…全然何考えてるのか分からない!!
「物陰からこっそり見られてると目につくから」
「あ、もしかして...邪魔ですか?」
「ううん。目障り」
それって言い方変えただけでほとんど邪魔って言ってるのと一緒じゃないですか!
「...だからもうそうならないように、君が近くで見ていられるようにしようよ」
「...はい」
にこにこ笑顔で少々辛辣なこの人との練習…どうなることやら...
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