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▼ 話したい

4人の素振りを少し眺めてから、私はその場を離れていた。

「…」

あの直向きな姿…私は知っている。ずっと近くで見ていた姿だった。
でもいくら見たって、同じじゃない。本人では決してない。

「…っ」

消えない寂しさや悲しみは、こうして私の涙を誘う。

少し泣いてスッキリしたら、先に帰ってよう。あの人達と喋れる自信ないし。

「おい、えーっと…名前なんて言うんだっけ…」
「!!」

びっくりした…。急いで目を擦り振り返るとまたしてもあの顔の怖い人がいた。

「桜…だけど」
「下の名前じゃなくて上の…っ!…泣いてたのか?」

ばれてしまった。

「哲くんには…言わないで。心配...かけてばかり..だから」

後ろを向いて、目を擦る。早く泣き止まないと…

「話し…聞くぞ?なんか悩んでんだろ、お前。俺でよかったら…」
「いいです、大丈夫だから」
「!…そうかよ。」

無愛想な態度に気を悪くしたかもしれない。でも、気を抜いたらもっと泣いてしまいそうで、とにかく涙が溢れぬよう目を擦り続けた。
ため息をついたと思えば顔の怖い人は、私にタオルを遠慮がちに差し出した。

「汗臭いのは我慢しろよ」

顔に似合わずやさしい態度。
驚きつつも受け取ると、ちょっとだけ汗臭くて、それでも涙を拭うにはちょうどよかった。

─‥
あれから哲くんのもとに1人で行き、今は一緒に家に帰ってる。

「なんかあの人やさしいね」
「?…誰のことだ?」

あ、名前ちゃんと聞いてなかった。

「あの人だよ、練習前に私に声をかけた人」
「伊佐敷か」
「そうそう。やさしい人だったよ、顔は怖かったけど」

私が少し笑って言うと、よかったなと哲くんも微笑んでくれた。
そっか…伊佐敷さんって言うんだ。下の名前は何て言うんだろう。きっとあんな顔だから勇ましい名前かもしれない。
…伊佐敷勇?

「…なんかやだな」
「?」

そう言えばあの人のこと、顔顔ばっか言ってることに気がついた。
人のことあまり顔で判断するのはいけないよね…。
伊佐敷さんみたいにやさしい人かもしれないし。

もっと上手に話すことが出来たらいいのにな。

今日出会った伊佐敷さんはただ見ているだけだった私を、そんな気持ちにさせてくれた。

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