▼ 栄純の宣言
そう言えば、未だに野球部の練習を見に行けていない…この一週間は優さんのこと友達のことで頭一杯だったからな。優さんには…未だに私はなにもできてないし。
...で、最近気がついたことと言えば、栄純の様子がおかしいということだ。別に病気とかそういうわけではなくて、バカなところは相変わらずだし、全然元気なんだけど。
なんか避けられてる気がする…
「寂しい…」
「…ふーん、そんなに沢村のこと気になんのかよ。」
「気になるというか心配というか…お互いになれない環境でどうしてるんだとか思うわけですよ。」
「あっそ。」
「洋一さんなんか…冷たくないですか?」
「別に。」
「なんか拗ねてません?」
「べっつに!!」
学校で初めての会話がコレだから怒ってしまったのかな?と首をかしげる。
すると、「帰ったらぜってぇ"おとす"…」と聞こえたような気がして…
「? ...あの洋一さん。」
「あ?」
「おとすって、何をですか?」
「お前は知らなくていいんだよ。」
そうして笑う洋一さん。
何故か悪い笑みに見えて悪い予感がした…
「いじめはダメですからね!」
「...しねぇよ、そんなこと。」
「その間はなんですか!」
授業中─‥
中学の時と変わらず不真面目な勉強態度をとる栄純を横目に、私はつまらない授業にウトウトしていた。
「コラァ! またお前かぁ〜」
突然の怒声にビックリして周りを見渡すと、クラスのみんなの視線の先には栄純がいた。よかった、栄純だった。私かと思ったじゃないか。
「ワシの授業はそんなにつまらんか〜 え!? 沢村ア〜」
先生の呼び掛けを知ってか知らずか栄純は更に堂々と寝てしまう…
焦る先生の声に男子生徒は笑ってる。
「ははは、仕方ないっスよ先生。」
「そいつ野球部なんだって、しかも一応スポーツ推薦で入ってきたみたいだし。」
中学でも不真面目だったけどね。
「なにぃ〜」
「へぇ〜すごいじゃん。うちの野球部って超有名じゃない?」
「練習も厳しいらしいよ〜」
ざわつく教室。
それくらい常識常識と、栄純と同じく寝ようとした私に渇をいれるかのように先生の怒号が教室中に響く。
「バカたれぇー!野球部だったらなおさら許せんっちゃ!!なにかと注目されてる分他の生徒の模範になれるようしっかりせんちゃっかぁー」
わけわからん、どこの方言。
そう思ってると、笑いが込み上げてきた。
「先生ーそれどこの方言?」
「プププ…」
「堪えて笑うな!麻日奈!」
なんか和やかな雰囲気…
こういうとこ結構好きかも…。
そんなことを思いつつ呑気に笑っていたら、目付きの悪い金丸くんがとんでもないことを言った。
「先生…そいつうちの部員じゃないですよ…」
「何? どうゆうことだ?」
「そ…そうだ!! どうゆうことだぁ〜!!」
あ、栄純やっと起きた。
「そいつ....まだ入部も認められていない見習い部員ですから、俺達と一緒にしないでもらえます?」
「「!」」
「ちょっ…と?」
「なにそれ」
「スポーツ推薦で入ってきて見習い…?」
「意味わかんねー」
「つーか 見習いってなんだよ!」
「でも何かかわいそう…」
信じられない言葉に栄純を見ると、焦っている ってことはホントだってこと…?
またバカやったのか…もう!
「かわいそうとか言ってんじゃねぇ!!
今はまだ誰にも認められてないけどなぁ…
いずれ俺は、
野球部のエースナンバーを背負う男だ!!
よーく覚えとけ!! オラ!」
「「「「「.....」」」」」
「ダハハハハハ、何言ってんだコイツ〜俺達に宣言してどーすんだよ!」
「熱ぃー もしかして熱血系?」
「マジ受けるよコイツ〜」
クラスが笑いに包まれる中で金丸くんは、悪い顔で言う。
「フン..何がエースだ.. いい加減気付けよお前はもう終わってんだよ!!」
「うるせぇ俺はまだ..って何笑ってんだオヤジ!!」
クラス中に笑われ金丸くんにはバカにされるしまつ、栄純のそっけなかった理由はコレかと一人で納得してしまった。
...エースナンバーを背負うか.....
「.....(ホントにバカ)」
でも、栄純の宣言に私はつい笑みを浮かべていた。
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