▼ 旅立ち
「栄純!」
栄純が旅立つ日、それは私の旅立つ日。
そう、私は一般入試を見事に合格したのだ。
私は栄純を見送れないと言った。何故なら青道に私も入学するというこを驚かせるためだ。ふふ、びっくりするだろうな。
「おう! 卒業式ぶりだな。」
「うん、栄太郎の号泣がおもしろかった。」
「お前だって、すげー泣いてただろうが!!」
「私は...」
「...ん?」
つい言葉につまってしまった。皆との“学校生活”は最後だったからなんて言えない。こんな時少し自分の選択を後悔してしまう、お父さんには口が裂けても言えないけど。でも、それでも、自分の想いを貫きたいから後悔しても私は進む。
栄純にも頑張って欲しい、心からそう思うんだ。
「...応援してくれると思うよ。皆、栄純のことを。」
「え...」
突然の私の言葉に栄純は驚いている。
「当然だよ。」
だから、自信満々に言ってやった。
「皆のこと忘れないでよ、あっちに行っても。」
「忘れねぇよ!」
「私は見送りには行けないけど、ずっと栄純のこと応援し続けるから安心して。」
「お.....おう」
あれ?…気のせいか栄純の顔が赤い。これはいけないな。
「ちょっと!何照れてんの!!浮気かコノヤロー。」
「照れてねぇよ、ばか。それに浮気ってなんだよ。」
「若菜ちゃんともう付き合ってるようなもんじゃん。」
「アイツはお前と同じ幼なじみだって前から言ってるだろ!!」
いつもみたいな口喧嘩が終わり、お別れをした。
頑張れよ 栄純!
─‥
私は栄純より先に行くつもりでいたのだけれど、皆は見送りに来てくれた。
「桜ちゃん、いいの?」
「何が?」
「栄ちゃんに何も言わなくて、栄ちゃん以外皆知ってるのに。」
「驚かせるためなんだからいいんだよ。ふっ」
「ふって─ 相変わらずのいたずら好き...」
皆とは当分会えなくなるけど、絶対また帰ってくるから大丈夫。
でも寂しいな...やっぱり。
それに若菜ちゃんとは結局仲直りできなかった...。やっぱり喧嘩していたのかもしれない、栄純が言ってたように。
今日、若菜ちゃんは来てくれない。
暗い気持ちになっていたらおばあちゃんは私の背中を叩いた。
「ほら、桜!何暗い顔してんだ、いつもみたいな笑顔でいなよ!」
「おばあちゃん...」
笑って私を見る、おばあちゃんとおじいちゃん。私は2人に抱きついた。
「ありがとう、ありがとう、ありがとう...っ ワガママばっかりで、迷惑ばっかりかけて、それでもっ、ここまで育ててくれて...ありがとうっ。」
「ば...!そんなこと今言うことじゃないだろうが。」
「馬鹿な子だね、本当に。」
「「大事な孫なんだ、当然のことだよ。」」
その言葉に嬉しすぎて涙が出た。
お父さんはその言葉に不満げだったけど。
「俺にはそんなこといってくれたことねーじゃねーかよ。」
迷惑かけすぎのお父さんの言うことはどっかに置いておこう。
電車が来る時間になる。
「じゃあ皆、今までありがとう。私、あっちでも精一杯頑張るから、応援してね!」
「うん、頑張れ!」
「頑張れ!」
「頑張ってね、桜ちゃん。」
「桜!!」
大声で私の名前を呼ぶ声。その声は聞き慣れた。大好きな人の声だった。
「若菜ちゃん!!!」
来てくれたことに驚いていたら、若菜ちゃんは呆れたように言った。
「私があんたの見送りに来ないわけないでしょ。」
「だって、ここ最近全然...」
「.....ごめんね、子供みたいなことして。私もこの半年色々考えたてたの。…別れっていったって永遠の別れじゃないんだよね。それでも寂しいんだ。でも、それと同じくらいに応援したいって気持ちがやっぱりある。
結局さ、桜が大好きだってことが分かっただけだったんだ。」
そう言って若菜ちゃんは私の頭をわしゃわしゃと撫でる。
私だって同じだよ、いろんな気持ちの中の根本的なところは変わらない。誰かを大好きだと想う気持ちは変わらないんだ。
「私だって若菜ちゃんのこと大好きだよ!私ね、本当は分かってたんだ、寂しいっていう若菜ちゃんの気持ちを…。だからもっともっと若菜ちゃんと話したかった。
でも今は私は若菜ちゃんに頑張れって言って欲しい。自分のやりたいことをやっと見つけられたんだもん、若菜ちゃんに背中を押して欲しいよ。」
もうすぐいかなきゃいけない。
お別れしなきゃいけない。
でも、これだけは言って欲しかった。
若菜ちゃんは少し涙を浮かべて笑うと私を抱きしめてくれた。
「中2の夏だって連絡できたんだし、これからだって沢山話なんて出来るよ。もう一生出来ないみたいに言わないの。
それから、桜祭りの時だって言ったでしょ。自分のためじゃなく誰かのために何かを決断できる桜が大好きだよってさ。…頑張れ、桜。」
涙を流してしまうような寂しさも、背中を押してくれる沢山のエールも全部自分の力になっていく。
旅立ちって別れを告げる方も辛くて、告げられる方も辛い。でも、やっぱり新しい未来への門出の日でもあるんだ。
今日私は、大好きなこの長野の皆の想いを糧に東京へ旅立っていった。
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