▼ 青道へいく
この夏休み来てから気づいたことがある。
純さんと洋一さんもそうなんだけど、1年生と2年生の距離随分と近くなったなぁと思う。洋一さんなんていつの間にか、純さんのこと名前で呼ぶようになってたし。なんだか時の流れを感じる。
そんな気持ちで和んでいると…何やら慌てた様子で槙原さんが来た。
「槙原さんトイレに虫でもいたの?」
「ちげぇよ、桜!もっとヤバイものだ。」
トイレにいるもっとヤバイもの?
カブトムシ…?あ、これ虫か。
「なんかさっきから、怪しいオッサンぽい二人が照明ももつけずにキャッチボールしてるんだ!!」
「「「不審者!?」」」
あれ..... それってまさか...
「行ってみようぜ。」
「え、危ないだろ?」
「見に行くだけだろ、大丈夫だって。」
お父さん、不審者扱いされてるよ。
でも、お父さんが不審者扱いされるのは別に構わないけど、片岡監督が不審者呼ばわりされたら大変だ。
皆でグランドにいくと本当にいた。
お父さんんん!!!!!!
そんな私の心配をよそに、お父さん達は楽しそうにキャッチボールをした後、お父さんは座って今度は片岡監督の球を受けていた。
「おい片岡!球威落ちたんじゃねーか?だめじゃねーか、指導にあたる者になったからって自分を甘やかしたらー。」
「麻日奈さん、俺の球受けるの初めてですよ。」
「あー?そうだったかー??」
どうしよう、片岡監督が不審者に…
暗くてよく見えない今のうちに片岡監督だけでもどこかに移動させなくては…。
「ねー 皆…」「何やってるんだ?」
「あ、哲。」
「なんか不審人物がキャッチボールしてんだよ。」
さっきから何処かに行っていた哲くんが現れた。
哲くん!ありがとう!!
今すぐこの状況を察して監督を救ってあげてー、という気持ちを込めて哲くんにアイコンタクト的なものをしてみた。
哲くんはじっとこっちを見て大きく頷いた
よかった、分かってくれたー。
「監督と蒼一さんだぞ不審人物は。」
「「「「....」」」」
哲くんんんんんんん!?
─‥
結城家へ2人で歩いていた。哲くんは用事があるとかで残ったのでここにはいない。
さっきのことで不満げな様子のお父さん。
「何で俺が不審者扱いされてんだよ。」
「お父さんはよくても、片岡監督が不審者扱いされるのは嫌だなーと思ったんだけど…哲くんがね。」
哲くんの天然を甘くみていた。
「俺はいいのかよ!?」
「うん、自業自得。」
「...最近娘が冷たい。」
私はお父さんに言わなきゃいけないことがある。
今日、洋一さんと話して皆に会って、お兄ちゃんの亡くなったあの日を思い出して…固まったんだ。決意が。
「ねぇ、お父さん。」
「...なんだー?」
「私、青道にいくから。」
「なっ!」
驚くお父さんの方をまっすぐと見つめ、私は言う。
「もう決めたの。私はここが好きなの、ここの皆が好きなの。私は成長したよ、お兄ちゃんがいなくても前に進むことができたよ、ここならもっと成長できると思うから、だから私は青道にいく。」
「.....」
そう、決めた。
私は自分のために、皆のために、お父さんのために、“青道”へいく。
「ったく、言い出したら聞きやしねー。あーもー勝手にしろ!」
投げやりな態度のくせに、いいよって意味のその返答に驚いた。あんなに反対してたくせに。
「いいの?」
「どうせだめっつってもいく気なんだろ?」
「うん。」
「ま、1人で行かせはしねーから安心しろよ。」
「じゃあ!!一緒に…」
「あぁ。」
こうして私は東京へ行くことが決まった。
そうだ! 皆にはサプライズにしよーっと。
今から皆の驚く顔が浮かんでなんだか楽しくなってきたよ。
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