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▼ 悲しみの先 2

悲しくなって辛くなった時、会いたい時、何故か倉持さんは私の前に現れる。
いつもなら喜ぶとこだけど、準決勝以来避け続けてたからなんか気まずい…。

「…」
「麻日奈」
「どうして...いつも..来てくれるんですか?えっと、その...こういう…時に。」
「たまたまだ。」

こういう時の意味が分かっているのかな、少し視線を逸らしている倉持さんを見て思った。
今日は理由聞かれても…言えないよ。あぁだめだ、泣きそう。なんだか倉持さんが来て安心して…、でも困らせたくない。
泣くな、泣くな。お願いだから出てこないでよ、涙。

「俺といるときくらい泣いたっていいんじゃねーか。」

「…え?」

俯きがちになっていた顔をあげると、倉持さんは視線を逸らしたままだ。
私だめだな…今日は絶対に泣かないって決めてたのに、…決意したのに。

「…もし先輩達の前で泣きたくないなら、せめて俺の前でくらい泣いたっていいんじゃねーかって俺は思う。」
「倉持さん…」
「お前...最近辛い顔してても、俺の前で泣かないじゃねーか、先輩達の前でも泣かないで、...お前どこで泣いてるんだよ?独りで泣いてるのか?」

理由なんて聞かずにただ"泣いてもいい"と、言ってくれる。本当に優しいひと。でも、たまに見せる寂しそうな顔。倉持さんにちゃんと2年生達とのことを話せていない、私のせいで。

あ、まただ…寂しそうな顔。

そんな顔しないで、倉持さんにそんな顔は似合わないから。

「倉持さ…」

名前を呼ぼうとすると、倉持さんはさっきとは一転し、私をちゃんと見て笑った。

「どうせ顔で大体バレてんだ、そんなんじゃ先輩達に心配かけさせちまうだけだぜ。だからたまにでいいから、俺の前でくらいは弱味くらい見せろよ、桜。」

全部言い終わると倉持さんは顔を真っ赤にした。
…倉持さんやっぱり優しいな、それにしても私今まで顔に出てたの…ん?あれさっき倉持さん…えっ!
なななななななななななな!!!!!

「名前…!!」
「…」

倉持さんはそっぽを向く。

初めて呼んでくれた、名前。なんだか私も照れてしまう。

そして、涙が今日初めて流れた。

それは嬉しさからなのだろうか、弱音を言ってもいいという安心感からなのだろうか。

「っ...だめっ..だめですよ....っ、だめだめだめっ...そんなこと言ったら。泣いちゃ…う。」
「だめじゃねー。」
「…私は今日は泣かないと決めてたのに。それに、皆に変な気遣いさせたくなかったのに顔に出てるし...新チームが始動して大事な時だって思って頑張ってたのに!…でも倉持さんに....こんな言葉貰って、いいのかな、こんな私だけ...幸せで....っ。」

倉持さんは私の髪をぐしゃぐしゃと掻き回した。

「いいって言ってんだろ!」
「!!!」

その言葉に、更にぼろぼろと出てくる涙。私の顔を見て倉持さんは驚くと、私のポケットからハンカチを取り出して手渡してくれた。自分のものは持っていないのは倉持さんらしい。

もしかしたら、ずっと心配させていたのかもしれない。
変に強がって都合が悪くなって逃げたりして、でもこうして大好きなこの人が言ってくれたことは紛れもなく私を想っていてくれていたと言うことなんだ。
ここまでさせてしまった原因は、私が何も話してないからだ。…話そう全てを。

「グスっ... 私はですね、引きこもりだったんですよ。」
「! おいっ、別に話さなくたっていいって…」
「言わせてください!!」

そう、言いたい、言わなきゃ。
寂しそうな顔はさせたくない、大好きなこの人には笑ってほしいから。

「理由は家族の…兄が、去年の今日亡くなったんです。私達家族は不仲というか、...お互いの思いを言い合わない家族だったから..、それでもお兄ちゃんとは仲良しでして、まぁ喧嘩とかもよくしたけど、お父さんは今みたいなんかじゃなくて、....悲しくて寂しくて目の前の現実から逃げたくて、引きこもり...ました。
勝手に独りと勘違いして、周りの人の気持ちをみんな無視して、自分のことだけ考えて、私が哲くんに“ここ”に連れてこられるまでは…。私は皆の野球を頑張る姿に背中をおされてやっと普通の生活に戻ったんです。
だから一緒に頑張ってきた皆のことは“大好き!”そんな皆に会いに来て、そしてあなたに出会った。
優しくて、照れ屋で、おしゃべりで、顔がちょっと怖いけど…大好きです! 優しい優しい倉....あーえっと...洋一さんが。」

洋一さんは私の最後の言葉に驚いたような顔をしたけど笑った。

私と一緒に。


悲しみの先。
…どんな悲しい出来事がおきても、悲しいままで終わりたくない、いつか必ず終わりはあるはずだから。だから悲しみの終わりには笑顔でありたい。
そう思う、そうであってほしい…。

こうして笑い合える人達に出会えた、今私は笑えてる。

お兄ちゃん、私ここに来れて本当に良かったよ。

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