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▼ 悲しみの先 1

今日はお兄ちゃんの一周忌。
本当は長野でやるものだけれど、東京で野球をやっていたお兄ちゃんはこっちの方が友人も多いということでこちらでやることになった。お墓もこっちでお母さんと一緒だし。

今日の天気は文句なしの快晴だった。

全てが終わり私はお父さんと散歩をしていた。

「…」「…」

こうして2人して無言なのは、久しぶり。正直なことを言うとお父さんは泣くと思ってた。でも、お父さんはただ黙って空を眺めているだけで私の顔を見ようとはしない。そんな姿を見ていると、やっぱり泣いているんじゃないんだろうかと思っていた。

「俺さ、お前が泣くと思ってた。」

同じ事考えてたんだ。

「お前が泣いたら俺も泣く。」

…訳が分からない。

「…なんで?」
「お前を1人で泣かせるわけにはいかないからな。」
「…なにその理由。」
「ダメかよ。」
「1人で泣きたくないのはそっちでしょ、私は別に平気だもん。」
「あっ、言ったなてめ........はぁ」

突然のお父さんの溜め息が気に入らなくて、一睨みすると、お父さんは私を見て少しだけ泣きそうな顔をする。そしてお父さんは言った。

「一年前とは違うよな俺もお前も、でも変わらないよな俺もお前も…。」
「?」
「俺達はやっと家族になれた。でも変わらないよな、そうたが大好きだってことは…俺もお前も。」
「そんなこと今…言わないでよ。」

目頭が熱くなってきてこらえた。泣いたら去年と同じだから。それに今日はこんなに晴れて、まるでお兄ちゃんが笑ってるみたいだから。

だから泣きたくても泣かない、今日だけは絶対に。

「俺、ちょっと今から青道に行くから。」
「え?」

突然のお父さんの言葉でさっきの涙が引っ込んだ、あ…出てないか。さっきまでお兄ちゃんの話をしてしんみりしてたのに、なんでいきなり青道の話が?…なんなのホントに。

「野球したくなった。片岡いるだろ? 俺ちょっと行ってくるわ。あ、お前も来る?」
「ちょっと待って!どうしたの急に…」
「そうたに会いたくなったんだ。無性に、そしたらやっぱり野球やるしかないだろ?」

そう言うと、お父さんは走り出した。
ほんっとにこういうとこお兄ちゃんそっくり、自分のいいと思ったことを必ずやろうとするんだから。
まぁ…私も私で来年青道に入学するつもり、でもお父さん達みたいに自分勝手じゃないよ!たぶん......いや絶対.....いやたぶん?

─‥

青道に到着したけど、私はバテてお父さんは元気。この野球バカめ!

「じゃあ、行ってくる。遅くなるかもしれないから、先に帰っててもいいからな。」
「え、いいの?」
「今日は色々あって疲れただろ。」
「…ありがと。」

お父さんはニッと笑うと走っていってしまった。多分、片岡監督のところに行ったんだよね。
…私はどうしようかな、やっぱり帰ろうかな。
…今日は疲れた、今日はやっぱり…悲しく…なっちゃったな。

目を閉じるとふと思い出が蘇る。
これからも消えることはないのだろう。楽しかったこと、喧嘩して泣いたこと、面白かったこと、そしてあの真っ直ぐな…お兄ちゃんを。

やばっ…今度こそ泣きそう。もう帰ろう、こんなところで泣いたら皆に会っちゃう。心配かけさせない様に、努力したんだから。

会ったら、だめだ。


「麻日奈」
「!」


いつもそうだ、いつも現れる、泣きそうなとき私の所へ。

倉持さんは。

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