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▼ 心配事 2

【小湊亮介視点】

「亮さん、どうしよう。」

久しぶりに話しかけてきたと思ったら桜はなんだか困った様子。
最近の桜は無理に明るくしてる節がある。顔に出やすいから無理してることはバレバレ。
大体皆気がついているだろうから、あえて声をかけたりはしなかったんだけど…。

「何?」
「最近、倉持さんと何も話してない。」
「なんで?」
「…亮さん、私ね、倉持さんに私自身のこと何も話してないの。私が青道の2年の皆のことを大好きになったきっかけを。」

…なるほどね。

「それをとっつかれるのが嫌で、最近近寄りもしなかったわけか。」
「うん。…私、いつも逃げてばかりだ。嫌なことがあると逃げて泣いて、いつもそう。去年の夏から何も成長してない。」

去年の夏。
俺達が桜に出会ったとき。桜は泣いて悩んで、そこでやっと手に入れたのは生きていくための勇気だった。

『泣いていたんだ、本当は。』
哲からこれを聞いた時、やっぱり桜だなって思った。
泣き虫で、顔に出やすくて、俺達のことをいつも応援してる桜。そんな変わらないものの中にある僅かな変化、それを俺は喜ばしく思うんだ。

「成長してないなんて言わせない、どこの誰にも。たしかにお前は泣き虫だ、でも人のためにも泣けるよね。」
「人のため…?」

首を傾げる桜に俺は笑う。

「聞いたよ、哲から。夏大が終わった後泣いてたって。」
「…え!」

何で言うのかなぁ…と落ち込んでいるけど、こっちは何で隠す必要があるのとも思うんだけど。まぁ、桜は戦ってない自分が選手達のように泣いちゃいけないって気持ちもあったんだろうけど。

でもね…

「誰かのために、誰かを想って泣くなんて、簡単に出来ることじゃない。お前は成長してる、強くなった。俺達はちゃんと分かってるから。でも、そんなお前の話を聞いて倉持がお前のことを受け入れないような奴なら、ふっていいよ。」
「…やっぱり話した方がいい?」
「いつかは話さなきゃいけないときが来る。…ただそれが桜が言うのが先か、倉持に聞かれるのが先なのかだけだよ。」

桜は俺の服の裾を握って視線を下に落とし、ポツリと言った。

「来週、お兄ちゃんの一周忌…」
「!」

その言葉にはっとした。
そうか、だからこんなに…無理して明るくしてたのか。

「まだ…言うのは嫌だよ。」

桜は顔を上げようとしない。
俺には出来ることなんて限られてる。

「…アイス奢るよ。」

俺は下を向いたまま泣かない桜の頭に手を置いた。

あの夏のように、桜は悲しい顔を見せなくなった。泣いている姿も最近、俺は見ていない。

心配かけさせないためにっていうのは分かる。俺達に頼らずに乗りきろうとする桜の強さも分かる。

そして、無理してるのもお前の場合は分かってしまう…
その桜の姿が俺は嫌なんだ。

ねえ桜、その日くらい泣いたっていいんだよ…

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