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▼ 稲実 1

【倉持洋一視点】

「稲実?」
「知らないのか?」
「…知ってます。」

俺達の対戦相手を教えると麻日奈は表情に少し影をおとした。感情が顔に出やすいこいつのことだから、これは何かあると直ぐに分かった。
どうしたんだと、言おうとするといきなり麻日奈は立ち上がった。

「麻日奈?」
「今日はもう帰ります。おやすみなさい。」

その時の麻日奈がおかしいことは分かっていたのに、俺に話せないことがあったっていいと言ったそばから話せだなんて言うことが出来なくて、俺は見送ることしか出来なかった。

麻日奈が、1人で泣くんじゃないかってことくらい容易に想像できたのに。

─‥

もしも生きていれば、もしも死ななければ…

もしもが沢山頭の中にあった。稲実という言葉を聞いた瞬間から…

お兄ちゃんが生きていればって。

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